温泉経営者がおすすめする一度は泊まりたい温泉宿#8 湯田川温泉 -九兵衛旅館-
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かっきー
江戸の玄関口と言われた宿場町に生まれ育った生粋の江戸っ子。還暦を迎えた今なお、旅とサーフィンをこよなく愛するアクティブシニア。某夕刊紙に勤務していた経歴を持つ。
マイナーな温泉から秘湯まで、気の向くままに温泉へ出かけることが大好きです。温泉の良さはもちろん、分かりやすく温泉や旅館などの良さをお伝えしてまいります。
古来より日本人の心に癒しを与えてきた温泉。温泉以外にも源泉周辺には景観や旅情を味わえる温泉街、温泉宿などその温泉地すべてを愉しむことが、日本特有の「温泉の楽しみ方」です。特に温泉宿は休息と心に余裕を持たせてくれるための大事な場所。
本企画は、温泉経営者が全国津々浦々の温泉宿から、おすすめの宿を選んでリレー形式でご紹介していく特別企画です。
今回ご紹介するのは、山形県の湯田川温泉「九兵衛旅館」です。温泉経営者をも唸らせる温泉宿の魅力をお届けします。
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目次
第8回目は山形県鶴岡市にある湯田川温泉の「九兵衛旅館」
提供:九兵衛旅館
第8回となる今回は、前回インタビューさせていただいた大分県別府温泉の木村さんがおすすめする、山形県鶴岡市の湯田川(ゆたがわ)温泉「九兵衛(くへえ)旅館」の経営者へインタビューしました。
九兵衛旅館のある湯田川温泉は、山形県の日本海側、鶴岡市にある開湯1300年を迎える由緒ある温泉郷。古くから鶴岡の奥座敷とも呼ばれ、米どころとしても有名な庄内地方を代表する東北で最も古い温泉地です。
提供:九兵衛旅館
温泉街は竹林と梅林に囲まれる閑静な環境のなか旅館が建ち並び、素朴でのどかな温泉情緒を味わえます。
提供:九兵衛旅館
地域振興に尽力する湯田川温泉「九兵衛旅館」11代目当主・大滝 研一郎さん
九兵衛旅館 11代目当主 大滝 研一郎さん
◇らくらく湯旅編集部(以降 編集部):特別企画の第8回は、湯田川温泉「九兵衛旅館」代表取締役社長である大滝 研一郎さんにお話を伺います。
本日はお忙しい中ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
◆大滝さん:よろしくお願いいたします。
梅林と竹林に囲まれた和やかな湯田川温泉
提供:九兵衛旅館(湯田川温泉 大提灯)
◆大滝さん:湯田川温泉は、開湯から1300年以上の歴史があり、東には月山(がっさん)・羽黒山(はぐろさん)・湯殿山(ゆどのさん)が連なる出羽三山(でわさんざん)、西は日本海に囲まれた自然豊かな場所。
温泉街周辺は、古来から湯田川温泉を守ってきた由豆佐売(ゆずさめ)神社を中心に、周辺には竹林や梅林、出羽三山の景観が広がる、穏やかな時間が流れています。
また、かつては徳川幕府の譜代大名・酒井家の治める庄内藩鶴ヶ岡城の城下町の奥座敷と言われていました。
提供:九兵衛旅館(鶴ケ岡城址の鶴ケ岡公園)
◇編集部:この地を訪れた文人墨客も多かったと拝見したことがあります。
◆大滝さん:明治・大正時代の文人墨客は、湯治をしながら創作することを好まれたらしく、湯田川温泉には画家・詩人である竹久夢二、俳人・種田山頭火(たねだ さんとうか)などが訪れたそうです。
また、小説家・藤沢周平さんはこの地の出身で、小説家として脚光を浴びる前は湯田川中学校の教員をされていました。実は当館の女将は、藤沢周平さんの教員時代の教え子なのです。
◇編集部:詩人や俳人、小説家と様々な方を癒し、創作意欲を与えていたのですね。
風格ある建物に魅了。300年以上もの歴史を誇る「九兵衛旅館」
◇編集部:九兵衛旅館の歴史についても教えていただけますでしょうか?
◆大滝さん:九兵衛旅館はおよそ300年以上前に開業した歴史があり、私で11代目の当主となります。
現在の建物は開業当時からの建物というわけではありませんが、木造建築となっており、古い梁には安政5年(1858年)と印されています。これはおそらく安政3年(1856年)の大火で焼失された宿を立て直したものだと思われます。
◇編集部:温泉もお宿も、とても長い歴史を持っているのですね。
源泉掛け流し。庄内の心和む風景と趣向を凝らした浴槽が特長の温泉
◇編集部:九兵衛を含む湯田川温泉は、国民保養温泉地にも指定されていると思いますが、温泉について教えてください。
◆大滝さん:湯田川温泉は湯治場としてゆっくりと安らげる癒しの環境や泉質の効能が認めれ国民保養温泉地に指定されたほか、日本源泉かけ流し温泉協会にも加盟しています。豊富な湯量の源泉は集中管理して、湯田川温泉にある旅館・共同浴場・足湯など全ての温泉浴槽は源泉掛け流しで楽しんでいただけます。
もちろん、当館の温泉も源泉掛け流しとなっております。
提供:九兵衛旅館
◇編集部:温泉街の全ての温泉浴槽が、源泉掛け流しというのは贅沢な自然の恵ですね。泉質の効能が認められたとのことですが、具体的な泉質や効能を教えていただけますでしょうか
◆大滝さん:源泉の泉質はナトリウム・カルシウム硫酸塩温泉。43~44℃の程良い温度の温泉が毎分約1000リットル湧いています。
湯は無色透明・無味無臭で、浴槽の下に針が落ちていても判るくらい澄んでいます。匂いのクセもなく、柔らかい肌触りで刺激がありません。そのため、幅広い世代の多くの方に楽しんでいただいております。
湯田川の温泉施設の中には、湯浴みだけでなく飲泉ができる施設もあります。ちなみに当館では、お米を炊く際に温泉水を使用しているため、飲泉所へ毎日汲みに行っています。
湯田川温泉の泉質は、温泉分析書では入浴の適応症として、リウマチ疾患、痛風・尿酸素質、創傷、高血圧症、動脈硬化症、病後回復期、疲労回復があるとされています。
ですが、この温泉は古くから「中気の湯」とも言われ、いわゆる卒中などの後遺症に効果が期待できるとされ、そういった症状の改善を目的としてご利用いただいているお客様も多いです。
また、ご利用いただいたお客様からは、アトピーに効果があったのでお住まいの近くで販売している場所がないかというご相談を受けたこともあります。
◇編集部:まさに身も心も癒してくれる素晴らしい泉質ですね。お宿の温泉施設はどのようになっているのでしょうか?
◆大滝さん:当館には露天風呂を備えた大浴場「山の湯」と、壁一面の水槽に金魚が泳ぐ大浴場の「川の湯」があります。
時間帯で男湯・女湯を切り替えておりますので、ご宿泊時はどちらの浴室もご利用いただけます。
<山の湯>
提供:九兵衛旅館
<川の湯>
提供:九兵衛旅館
また当館では、檜の浴槽の貸切風呂をご用意しています。やわらかな日差しが差し込むプライベート空間で、ご家族や友人の皆様で湯浴みをお楽しみいただくこともできます。
提供:九兵衛旅館(貸切風呂)
◇編集部:温泉付きの客室もあるとお伺いしました。
◆大滝さん:はい、客室風呂のあるお部屋を5部屋ご用意しています。
提供:九兵衛旅館(花ごよみの間)
◇編集部:客室風呂ながら広々とした空間で、ゆったりと温泉を満喫できそうですね。
あえて高級食材は使用しない。地産の旬の食材をふんだんに味わえる料理の数々
◇らく湯旅:温泉も素晴らしいものですが、九兵衛旅館はなんといってもお料理にこだわりがあるとお伺いしました。
◆大滝さん:当館は高級旅館ではなく、リーズナブルな料金で楽しんでいただくためにも高級な食材は敢えて使用していません。
例えば山形県で牛肉というと米沢牛や山形牛というブランド食材をイメージされる方も多いかと思いますが、当館では高価な食材を使わずに、地産の旬の食材に拘っています。
お客様のお声をお借りして申し上げますと、またとないその時期の旬の食材を使ってひとつひとつのお料理に手が込んでいて美味しいと大変喜んでいただいています。
◇編集部:素晴らしい取り組みですね。地産の旬の食材ということで、天候などによっても生育具合が変わってきたり、入荷できなかったりとご苦労も多いのではないでしょうか。
◆大滝さん:当館は旅館の規模の割には、調理人の数が多いにも関わらず、長時間労働となってスタッフには苦労をかけてしまっています(苦笑)。
ですが、料理への拘りを徹底して取り組んできた甲斐もあり、現在のコロナ禍の時節柄にあってもリピートのお客様に支えていただき、スタッフの励みともなっています。
◇編集部:旬の食材にはどのようなものがあるのでしょうか?
◆大滝さん:夕食のお料理は、庄内地産の旬の素材づくしで季節ごとに「基本プラン」と「特別プラン」をご用意しています。
いちばんの人気は、5月の孟宗竹(もうそうちく)と呼ばれる筍を素材とした「孟宗の膳」です。
湯田川温泉は「孟宗と梅の里」とも言われるほどの地産の特産品で、この期間の夕食は孟宗の筍づくしのお料理だけを丹精を込めて作り、ご提供しています。
この孟宗の膳を食べるために当館へ訪れてくださるお客様も少なくありません。お客様の期待に応えるために私自ら、当館が管理している竹林に肥料をまくなど、日々心を込めて育てております。
新鮮な食材をお客様にご提供すべく、毎朝筍を取りに行って調理をしています。
提供:九兵衛旅館(孟宗の筍)
もしも筍が食べられないというお客様には、時期をずらしてご利用いただいています。
また中には、ご予約の際にメインの食材が筍だけとご案内すると、ガッカリされるお客様もいらっしゃいます。しかし実際に訪れていただいた際には、筍を食材にしたお料理のバリエーションの豊富さと、美味しさに驚かれ大変喜んでいただいています。
提供:九兵衛旅館(孟宗の膳)
特別プランは他にも、6月から7月にかけては夏が旬となる日本海の天然岩牡蠣をメインとした「岩牡蠣の膳」、11月からは冬の日本海を代表する食材ズワイガニの「ズワイガニの膳」、1月からは「寒鱈(かんだら)の膳」、2月には「アンコウの膳」などがあります。
<岩牡蠣の膳>
提供:九兵衛旅館
<ズワイガニの膳>
提供:九兵衛旅館
<寒鱈の膳>
提供:九兵衛旅館
<アンコウの膳>
提供:九兵衛旅館
当館でご提供しているお食事へのこだわりは、旬の食材だけではありません。
米どころ庄内ならではのおもてなしとして山形が産んだお米を、朝食には「つや姫」夕食には「雪若丸」など、出し分けて楽しんでいただいています。
また先ほどもお伝えした通り、お米を炊く際には、飲泉許可を取っている源泉まで温泉水を毎日汲みに行き、それを使用して炊き上げています。
◇編集部:庄内の海の幸、山の幸、数え挙げるときりがありませんね。
◆大滝さん:鶴岡市はそもそも海の幸や、お米をはじめ孟宗竹やだだ茶豆といった在来野菜をはじめとする四季折々の旬の素材が多いという恵まれた土台があります。
その四季折々の旬の食材や食文化が発展してきた地域でもあり、それが認められてユネスコの創造都市ネットワーク「食文化創造都市」に認定された世界の約250の都市のうち、日本国内で唯一認定された都市でもあるのです。
◇編集部:何度も訪れて、その時々の旬の食材を食べ尽くしたいですね。
プライベートな時間を最優先。九兵衛のおもてなしは至福のとき
◆大滝さん:以前は周辺の観光スポットなど、アクティビティを楽しむ方もいらっしゃいましたが、最近では当館に来ていただくことを目的にご利用いただくことが多くなりました。
そのため14:00チェックイン、翌日11:00チェックアウトと、通常より前後に1時間伸ばして、ゆっくりとご滞在いただけるようにいたしました。
ご滞在の間は、特にお客様のプライベートなお時間を最優先して自然なおもてなしを心がけています。お客様がお部屋にいらっしゃるときには、出来るだけ距離をおき、お食事などの際には心を込めてご接待させていただいています。
当館は若いスタッフが多いのですが、厳格なマニュアルなどがなくても自然と身についた素直・親切なおもてなしで、お客様より多くのお褒めの言葉を頂戴しています。
◇編集部:リピートするお客様の気持ちがわかりますね。
湯田川温泉・九兵衛旅館 大滝さんがおすすめする温泉宿
◇らく湯旅:「らくらく湯旅」ではリレー形式で温泉宿を紹介していきます。大滝さんがおすすめする一度は泊まりたい温泉宿をご紹介いただけないでしょうか。
◆大滝さん:ひとつだけでしょうか?沢山あってひとつに絞るのは非常に難しいですね(苦笑)。
そうですね、ひとつだけでしたら秋田県湯沢市の泥沼温泉にある「奥山旅館」をおすすめします。
◇編集部:そちらの旅館がなぜ、おすすめなのでしょうか。おすすめするポイントをお伺いできますか?
◆大滝さん:秋田県は秘湯王国とも言えますが、その中でもお宿の佇まいや周辺ロケーションなど秘湯と呼ぶにふさわしい雰囲気満点のお宿である点です。
奥山社長とは旅館組合青年部での知り合いで、互いに東北地方に古くから歴史のある旅館を盛り立てて、お客様をおもてなしするという思い入れにおいても共感するものがあります。
2016年に旅館が火災で全焼してしまい、その後大変な中で2019年に再建した旅館です。その後すぐにコロナ禍に見舞われ、経営も大変かと思いますが、評判もとてもいいようです。
<施設情報>
・施設名:泥湯温泉「奥山旅館」
・住所:秋田県湯沢市高松字泥湯沢25
・電話:0183-79-3021
・アクセス:
<電車>JR湯沢駅からシャトルバスで45分
<車>東北自動車道 古川ICから160分、秋田自動車道 須川ICから25分
温泉好き「らくらく湯旅」ユーザーへのコメント
◇編集部:最後に、「らくらく湯旅」ユーザーへ一言おねがいします。
◆大滝さん:九兵衛旅館は、自然なおもてなしでお客様にゆったりとくつろいでいただき、美味しいお料理と温泉で、身も心も癒していただくことを心がけています。
このような時節ではございますが、孟宗の筍をはじめとする春夏秋冬を通じた庄内地産の旬の食材のお料理をご堪能しに、是非お越しくださいませ。
スタッフ一同、皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。
◇編集部:本日はお忙しい中、お時間を頂戴いたしましてありがとうございました。
歴史ある湯田川温泉と、庄内地方の豊かな食材と永らく培ってきた食文化への熱い思いをたっぷりと伺うことができ、季節を変えて何度も訪れたくなる素敵なお宿であることがわかりました。
四季折々のお食事と、穏やかな空気が流れる雰囲気を堪能しに、この地を訪れてみてはいかがでしょうか。
<基本情報>
・施設名:湯田川温泉 九兵衛旅館
・住所:山形県鶴岡市湯田川乙19
・電話:0235-35-2777
・ホームページ:http://www.kuheryokan.com
・アクセス:
<電車>JR・鶴岡駅からバス25分
<車>鶴岡ICから10分
<飛行機>庄内空港からバス25分