温泉経営者がおすすめする一度は泊まりたい温泉宿#9 泥湯温泉-奥山旅館-
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自然のままに温泉を楽しめる、秘湯と呼ばれるにふさわしい温泉
◇らく湯旅:泥湯温泉は、日本秘湯を守る会の会員でもある秘湯と呼ばれていますが、どのような泉質なのでしょうか。
◆奥山さん:当館は、自然湧出している3種類の泉質の異なる源泉を持っています。それぞれの源泉から宿の温泉までは落差を利用して湯を引いていますので、ポンプなどで組み上げることなく自然のまま温泉を楽しんでいただけます。
◇編集部:一軒の温泉宿で3種類の泉質を楽しめるのは嬉しいですね。

提供:奥山旅館(大露天風呂)
◆奥山さん:それぞれの泉源には泉質ごとに泉源名を付けており、透明で湯の花が舞うような単純泉の「新湯」、硫黄泉で鉄分を多く含み白色や茶色の湯などその日によって変化する「天狗の湯」、単純硫黄泉で硫化水素型のため真っ白な湯の「川の湯」となっています。
新湯は男女別の「大露天風呂」、天狗の湯は「混浴露天風呂」と「男女別の内風呂」、川の湯は「女性専用露天風呂」で、全て掛け流しとなってます。

提供:奥山旅館(混浴露天風呂)

提供:奥山旅館(内湯)

提供:奥山旅館(女性専用露天風呂)
◇編集部:女性は3種類の泉質すべてが楽しめるのですね。立ち寄り湯でも全ての温泉が利用できるのでしょうか。
◆奥山さん:ご滞在のお客様以外でも、立ち寄り湯で全ての温泉をご利用可能です。
立ち寄り湯については、当旅館の付近にある川原毛(かわらげ)地獄に訪れた方などが疲れを癒すためにご利用いただいていることが多いです。ただ、現在はコロナ禍の対応のため大変ご不便をおかけして恐縮なのですが、10:30〜13:30の受付で14:30終了と時間を大幅に短縮してご提供させていただいております。
◇編集部:それぞれの温泉の特長を教えていただけますでしょうか。
◆奥山さん:硫黄泉においては、これぞ温泉という硫黄の匂いがしますが、泥湯温泉の周辺は硫黄の匂いが立ち込めていて、場所によっては立ち入り禁止となっているほど。そのため、温泉それぞれの湯の匂いはあまり気になりません(笑)。
その一方で、硫黄の成分が強いため、電化製品がすぐに故障してしまいますね。テレビなどは早くて3ヶ月ほどで、急にボリュームが上がったりなど故障してしまいます…。そのことから、お客様にご迷惑をおかけしないよう、当館ではお部屋にテレビを置いていません。
テレビを置いていない分、周辺の自然を感じながらゆったりとおくつろぎいただけます。

提供:奥山旅館
◇編集部:3ヶ月ほどで家電製品が壊れてしまうとはすごいですね。その分、いろいろな効果効能が期待できそうですが、いかがでしょうか。
◆奥山さん:一般的には、打身やリュウマチ、肩こりに良く効くと言われていますが、湯浴みをされた方からは「疲れを湯船に置いてこられる」と仰って、疲労回復にも良いと伺っています。疲れが取れるのは、泥湯温泉の手つかずの大自然に囲まれた景観などから心もほぐしてくれる補助的な効果があるのだと思います。
◇らく湯旅:大自然の恵みを感じながらゆったりと温泉に浸かれるのは贅沢ですね。
秋田県の自然をふんだんに使った温かな空間が広がるお部屋

提供:奥山旅館(玄関前の飲泉場)
◇編集部:奥山旅館をご紹介いただいた大滝さんから、大変なご苦労をされて歴史ある旅館を再建されたと伺いました。
◆奥山さん:奥山旅館の創業は1912年(明治45年/大正元年)で、私で5代目当主となります。現在の宿は2016年に火事で全焼したものを、2019年に再建したものです。
実は宿が全焼した時には正直に言って廃業するつもりでした。しかし、地域の皆様や再建を望むお客様のお声に励ましていただき、また生まれ育った故郷である泥湯温泉の歴史と文化を継承するためにも、宿を再建することを決意いたしました。
おかげさまでリニューアル後には、地域の皆様をはじめリピーターのお客様にご愛顧賜り、昨年のコロナ禍で休館した後でも、何とか宿を継承することができています。
◇編集部:再建される際にこだわったところがありましたら、お教えいただけますでしょうか。
◆奥山さん:宿の再建にあたっては、この地の歴史と大自然の景観と融合することにこだわり、コンクリート造ではなく木造建築が良いと考えました。
そこで同じ秋田県内の日本秘湯を守る会会員である鶴の湯温泉さんに、県内の古民家専門の建築家をご紹介いただき「秋田県の古材を使用して古民家風の宿を建築して欲しい」と相談し、設計していただきました。

提供:奥山旅館
◇編集部:歴史ある秘湯の趣を損なわないように徹底してこだわったのですね。懐かしい雰囲気、温かみのある空間で自然と心が穏やかになりそうですね。
◇編集部:お宿の規模はどのくらいなのでしょうか?
◆奥山さん:宿には9つのお部屋をご用意しています。1部屋の定員は2名様なので、全部で18名様がご滞在いただけます。

提供:奥山旅館
また、常にお客様と会話をするということを徹底しており、お客様のお声に耳を傾けてサービスに反映するよう心がけています。
地産地消の新鮮な食材を使用し、秋田を心ゆくまで堪能できるお食事
◇編集部:お食事にもこだわりがあるとお伺いしました。
◆奥山さん:地域の皆さまとお客様の励ましとお力添えで再建できたということもあり、ご滞在いただくお客様に優れた地産の特産品を知っていただきたいと思い、地元のものをご提供することにこだわっています。
湯沢は酒どころでもあるので、食前酒として地元のお酒をお出ししてお食事を楽しんでいただいています。
また、豊かな土地・湯沢の地産地消の食材を使用して、手作りで手間をかけてお料理することにこだわっています。
食材としては例えば、知る人ぞ知る秋田の高級和牛「三梨(みつなし)牛」や「皆瀬(みなせ)牛」があります。ブランド牛として出荷数自体が少ないため県外に出ることが少ない幻の牛肉とも言われており、大変ご好評いただいています。
そのほかにも、旬の食材を山菜採りの名人に依頼して、春の山菜、夏のじゅんさいや夏野菜、秋のきのこ、冬はひろっこと呼ばれるあさつきの新芽などを収穫し、お料理にふんだんに取り入れ提供しています。お米も地元の「あきたこまち」を使用しています。

提供:奥山旅館(皆瀬牛リブロースステーキ)

提供:奥山旅館(山菜の揚げ物)

提供:奥山旅館(湯沢特産のひろっこの酢の物)

提供:奥山旅館(三関セリと岩手鴨のすき焼き)

提供:奥山旅館(りんごグラタン)

提供:奥山旅館(ご飯:秋田小町)
お酒も、湯沢市にある蔵元の両関(両関酒造)、爛漫(秋田銘醸)、福小町(木村酒造)を飲み比べできる「湯沢セット」、少し地域を広げて秋田県内の蔵元さんのお酒を飲み比べできる「県内セット」をご用意しております。

提供:奥山旅館(飲み比べセット)
◇編集部:見事なまでに地産地消ですね。すべて産直の食材ですとご苦労もあるのではないでしょうか。
◆奥山さん:収穫にバラ付きがある旬の山の幸などは、鮮度を落とさないように食材を上手く保存する方法も研究する必要がありますね。

提供:奥山旅館
◇編集部:大変なご苦労の中、手間暇をかけて作り出されるお料理一品一品を、ゆっくりと味わってみたいものです。



