【湯田温泉】 源泉かけ流し|庭園露天と街歩きの余白


出典:山口県観光連盟
2025年12月30日更新

この記事を書いた人

湯あがり ぽか子

温泉大好き40年のベテラン。「一湯一会」を逃さないために、常に手ぬぐいを持ち歩いています。長年の経験で、お湯を触っただけで大体の泉質がわかる特技を持ちます。温泉好きが高じて、温泉ソムリエ・温泉観光アドバイザーの資格を取得。日本の宝である「温泉文化」を皆さんにお伝えできることが喜びです!

湯田温泉は山口市の中心部にありながら、古くから湯治場として親しまれてきた歴史を持ち、街の暮らしと温泉が穏やかに寄り添っています。

湯田温泉の入り口でふっと肩の力が抜けたのは、湯けむりの匂いとやさしい空気のせいでした。

山水園の庭園露天に身を沈めると、湯面に映る緑が波紋とともにほどけていきます。
朝は鳥の声、夜は灯りのゆらぎが寄り添い、源泉かけ流しの湯が一日の輪郭をやわらかく整えてくれる。

そんな時間を軸に、湯田の見どころも歩幅のままに味わっていきます。

瑠璃光寺五重塔と中原中也記念館、湯田から半日の名所めぐり


出典:山口県観光連盟

田温泉を拠点に半日で巡れる名所として心に残るのが、瑠璃光寺五重塔と中原中也記念館です。

朝の湯で体を整えたあと、街を抜けて瑠璃光寺へ向かうと、木立の向こうに静かに立つ五重塔が姿を現します。

国宝に指定された塔は、派手さを抑えた端正な佇まいで、見る角度や光の入り方によって印象を変えます。境内を歩くうちに、時間の流れが少し遅くなったように感じられ、旅の視線が自然と内側へ向いていきます。

そこから足を延ばして訪れたいのが、中原中也記念館です。
山口市出身の詩人・中原中也の生涯や作品が丁寧に紹介され、展示室に足を踏み入れると、言葉と静けさが並んで存在していることに気づかされます。
原稿や書簡、写真を通して伝わる感性は、読むという行為以上に“感じる時間”を与えてくれます。
建物の落ち着いた空間もまた、思考を深める余白として心地よい場所です。

自然と歴史、そして文学。性格の異なる二つの名所を巡ることで、湯田の旅は温泉だけにとどまらない奥行きを帯びてきます。

歩き疲れたら、再び湯田へ戻って湯に浸かる。その循環が、半日という短い時間を、静かに満ちた旅へと整えてくれます。

「山水園」で味わう、湯田温泉 源泉かけ流しと庭園


出典:山水園

湯田温泉の中でも、長くこの地の時間を受け止めてきた宿が山水園です。
創業以来、庭園と建物を大切に守りながら、街の変化を静かに見つめてきました。
湯処へ向かうと、まず感じるのは、歴史ある宿ならではの落ち着いた空気。大浴場は内湯ながら、窓の向こうに広がる庭園の景色が、湯に浸かる時間へと自然に視線を導いてくれます。

湯田温泉の源泉かけ流しは、やわらかな肌あたりで、湯の温もりが角を持たずに広がっていきます。
湯面に映る庭の緑や、夜には灯りの陰影が揺れ、長く浸かっても重たさを感じにくい心地よさがあります。
朝は澄んだ空気とともに庭の輪郭がくっきりと立ち上がり、夜は静けさが深まり、湯と向き合う感覚がいっそう研ぎ澄まされていきます。

新しさを競うのではなく、積み重ねてきた時間をそのまま受け渡す——山水園の湯と庭には、そんな姿勢が感じられます。

源泉かけ流しの湯に身を沈め、庭を眺めるひとときは、湯田温泉が育んできた歴史に、そっと触れる体験でもあります。

「松田屋ホテル」で継がれる湯と庭、湯田温泉 源泉かけ流しの余韻

出典:松田屋ホテル

松田屋ホテルに足を踏み入れると、湯田温泉の中でもとりわけ重ねられてきた時間の層が、空気として伝わってきます。

歴史を抱えた庭と建物は、声高に語ることなく、ただ静かにそこに在り続けています。湯処で味わう源泉かけ流しの湯は、やわらかな肌あたりで、身を沈めるほどに体の緊張がほどけていきます。
湯の温もりは強すぎず、長く浸かっても重たさを残しません。

湯に浸かりながら望む庭の景色は、季節や時間帯によって表情を変え、視線を自然と外へ導いてくれます。
朝は光が葉の輪郭を際立たせ、夜には灯りが影を落とし、湯面に静かな揺らぎを生み出します。
庭と湯が無理なくつながる設えは、意識を過去と現在のあいだへと緩やかに運び、滞在の時間に奥行きを与えてくれます。

松田屋ホテルで過ごす源泉かけ流しのひとときは、湯田温泉が育んできた歴史と、今も続く日常とを結ぶ体験です。湯から上がったあとも、庭の景色と湯の余韻が心に残り、旅の終わりまで静かに寄り添ってくれます。

「西の雅 常盤」の夜湯とステージ、湯田温泉で“遊ぶ”一夜

出典:西の雅 常盤

日が落ちる頃、西の雅 常盤の館内には、少し華やいだ空気が流れはじめます。

夜湯に身を沈めると、湯田温泉のやわらかな湯が一日の疲れをほどき、体が軽くなるのを感じます。

湯上がりの余韻をまとったまま向かうのが、この宿ならではのステージ。
女将劇場として知られる演目は、歌や踊り、語りが織り交ざり、観るほどに場の一体感が増していきます。

静かに湯と向き合う時間とは対照的に、ステージでは笑い声や拍手が重なり、旅の夜が一気に動き出します。
その切り替えの鮮やかさが、西の雅 常盤の魅力です。
温泉で整えた心身を、あえて賑わいの中へ委ねることで、湯田温泉のもう一つの表情に触れられます。

湯に浸かり、舞台を楽しみ、余韻を胸に客室へ戻る。西の雅 常盤で過ごす一夜は、癒やしだけで終わらない“遊び”の記憶として、湯田温泉の旅を印象深く彩ってくれます。

湯田温泉の源泉かけ流し温泉の概要

出典:山口県観光連盟

湯田温泉は街なかに湯の気配が漂う歩きやすい温泉地です。足湯や湯のモニュメントが点在し湯けむりを辿る散策が楽しくなります。

白狐が癒やしの湯を見つけたと伝わる物語が受け継がれ、旅情をそっと添えてくれます。
宿ごとに趣の異なる湯処があり、滞在のスタイルに合わせて選べます。

泉質はアルカリ性単純温泉で、効能は神経痛・筋肉痛・関節痛・冷え性・疲労回復・健康増進です。源泉温度は約72℃で、pH値は約9.1(アルカリ性)で、湧出量は毎分約2,000リットルの無色透明・やわらかな肌ざわり・美肌の湯・街なかに源泉が点在が特徴の温泉です。

旅の余韻


出典:山口県観光連盟

湯田温泉で過ごした時間を振り返ると、湯のやわらかさだけでなく、庭の静けさや夜の賑わい、歩いた道の気配までもが静かに立ち上がってきます。

湯に浸かり、町を巡り、また湯へ戻る。その往復のなかで、心の輪郭は少しずつ整えられていきました。

帰路につくころ、体に残る温もりは薄れても、笑い声や静寂の記憶は長く寄り添います。

湯田の旅は、日常へ戻る前に、もう一段深い呼吸を与えてくれる余韻を残してくれます。