未開の地に創業した温泉旅館・丸駒温泉旅館

◇編集部:次に丸駒温泉の歴史について教えていただけますでしょうか。

◆佐々木さん:丸駒温泉旅館は大正4年12月に創業して、私で4代目の館主となります。

初代となる佐々木初太郎は、もともと苫小牧の製紙工場稼働に使用する水力発電施設を建造するために、福島県から土木技師として招かれていました。その工事が終わり福島に戻る頃、佐々木初太郎は坐骨神経痛という病を罹っていたようです。

そんな時、一緒に仕事をしていたアイヌの方々から、恵庭岳の麓に効能高い温泉が湧いていると聞き、妻とアイヌの方と犬一匹を連れ、14km離れた対岸から手漕ぎの船で、当時未開の地であったこの地に辿り着いたと聞いています。

辿り着いた場所を手で掘ると熱い温泉が湧き出したことから、そこに草葺き屋根の小屋を建てたとのことです。自給自足の生活をしながら湯治をしたところ病も快方していったと聞いています。

そして支笏湖のヒメマス、ジビエや栗、山菜など山の幸に恵まれ、効能あらたかな湯が渾々と湧くこの地を「こんなに平和な場所はない」と言い、お客様を迎え入れるように温泉旅館を建造したのが、丸駒温泉旅館の礎となっています。

提供:丸駒温泉旅館

◇編集部:未開の地に温泉宿を建て、100年以上も継承していくには、大変なご苦労もあったのではないでしょうか。

◆佐々木さん:以前は船でアクセスする木造の温泉宿でしたが、いまでは道路も整備され、便利にお越しいただけて快適にすごしていただける堅牢な建築の近代的な宿となっています。それまでは、数年おきに何度か自然災害などの被害に遭っていたと聞いています。

また、レジャーが盛んなバブルの時代には、高い建物に沢山の客室を設けてお客様を多く迎え入れたいという世の中の風潮がありました。ですが、当館は国立公園の中にあるため国立公園法によって建物の高さやベッド数のキャパシティといったものが厳しく規制されており、そのような世の中でも、3階建て、5タイプ56部屋の限られたお客様しかお迎えできませんでした。

ただ、そのおかげで支笏湖というブランド価値のある地域として、現在もなおご愛顧いただいたのではないかと考えています。

◇編集部:大自然の中に佇み、国立公園内という貴重な存在だからこそのご苦労があったのですね。

奇跡の湯と呼ばれる足元自然湧出の源泉

提供:丸駒温泉旅館

◇編集部:丸駒温泉に湧く温泉は、奇跡の湯とも呼ばれていると伺っています。

◆佐々木さん:当館にある天然の露天風呂は足元湧出泉(あしもとゆうしゅつせん)と呼ばれ、湯船の底に敷いた砂利の間から自然に湧出する源泉となっています。このような湯船の底から湧く温泉は、日本に20箇所程度しかない希少な温泉なのです。

◇編集部:温泉大国といわれる日本には、2万7千を超える源泉があると言われていますので、本当に希少な源泉なのですね。

◆佐々木さん:この天然露天風呂は、支笏湖と繋がっており、湯船の底から自然湧出して一度も大気に触れずにそのまま湖に流れ出ていく温泉です。

湯の底に敷く砂利の量を調整して、湧出量を適宜調整しています。多少の湯温の調節は可能ですが、鮮度抜群の源泉で湯浴みしていただくよう加熱や加水、循環など一切手を加えていないため、新鮮で良質な温泉を楽しんでいただけます。

支笏湖と繋がっていることから、湖の水位が変化するのと同じに露天風呂の水位も深くなったり浅くなったりするのも特長です。

提供:丸駒温泉旅館

一番浅くなるのは春先で45cmくらい、夏には80cmと徐々に増えていき、一番深いのは秋で1mくらいです。

過去には約160cmの深さになった時もあるため、一番深くなる秋頃は温泉のそばに浮き輪を置いていることもあります。

また冬場は外気温とともに湯の温度も36℃くらいまで下がりますが、すべて自然のまま手を加えない純粋な温泉で湯浴みしていただいています。

◇編集部:足元自然湧出の天然露天風呂のほかにも、温泉はあるのでしょうか?

◆佐々木さん:当館が持つ源泉は何種類かあり、支笏湖を望むウッドデッキで涼みながら湯浴みいただける展望露天風呂、内湯の大浴場、ご家族や仲間と気兼ねなくお楽しみいただける露天風呂の付いた貸切風呂があります。

提供:丸駒温泉旅館(展望露天風呂)

提供:丸駒温泉旅館(貸切風呂)

また、宿の東向きに支笏湖がありますので、展望露天風呂に浸かりながら日の出を拝むこともできます。お正月を当館で迎えになるお客様の中には、展望露天風呂に浸かりながら、初日の出を今か今かと待ち侘びている方もいらっしゃいます。

提供:丸駒温泉旅館

全ての温泉はご滞在のお客様以外にも楽しんでいただけるよう、10時から15時までの受付で、立ち寄り湯でも堪能していただけます。

当館の温泉は、無色透明で海水の成分に似た塩化物泉です。塩分が含まれているためあるので、保温効果に優れています。展望露天風呂については鉄分を多く含んでいるため、茶褐色となっています。

なお、当館の温泉は飲泉の許可も取得しているため、浸かるだけでなく味わっていただくことでもお楽しみいただけます。ただし、塩分を多く含んでいるため、高血圧の方や胃腸の弱い方は飲み過ぎにご注意いただければと思います。

ふるさとをテーマに囲炉裏を囲み、旬の地産地消の食材を堪能いただくお食事

提供:丸駒温泉旅館

◇編集部:次にお宿のこだわりなどをお伺いできますでしょうか。

◆佐々木さん:私が館主となってからは「ふるさと」というものをテーマとしています。

そのひとつとして、ゆったりと足を伸ばしてお寛ぎいただける掘りごたつに、囲炉裏(いろり)を設置したお食事処を作りました。

提供:丸駒温泉旅館

囲炉裏を囲み、ご友人やご家族で地産の食材を串や網で焼いたり、鍋などで温まりながらお食事を楽しんでいただけます。

提供:丸駒温泉旅館

囲炉裏を囲むことで、昔ながらの食事風景を感じたり、シニア世代の方々は思い出や懐かしさといったものを感じて「ふるさととはこういうものなのかな?」とイメージいただけると思っています。

例えば、3世代で囲炉裏を囲み、祖父母から孫へ「こうして炭を斜めに立てると炎が出るんだよ」といった教えなど、今ではなかなか体験できないことを自然にできる空間をご提供しています。

◇編集部:囲炉裏で味わう懐かしさや温かさと、昔ながらの体験を孫世代へ伝えられる、その仕組みは素晴らしいですね。

◆佐々木さん:ふるさとをテーマとした雰囲気作りはもちろん、ご提供する食材にもこだわっています。6月〜8月はヒメマス、その他の季節にはヤマメの姿焼きを囲炉裏で炙って焼いて、召し上がっていただきます。

提供:丸駒温泉旅館

もうひとつのこだわりが、この付近の山々で採れた山菜をご提供することです。特に血行促進や滋養強壮に高い効果があるといわれる行者にんにくは、年間を通じて全てのお客様に必ずご提供することにこだわっています。

4月から5月にかけて私を含め、宿のスタッフ、知人とで120kgほど収穫しています。収穫した天然の行者にんにくは醤油に漬けるとピリッとして、ご飯のおかずにピッタリなんです。

◇編集部:天然の行者にんにくはは大分減っていると聞きます。貴重な食材を年間通して味わえるのは嬉しいですね。

提供:丸駒温泉旅館

◇編集部:その他にはどのような食材があるのでしょうか?

◆佐々木さん:豊富な食材に恵まれた地域なので、近くの苫小牧の海の幸として新鮮な魚のお刺身や、海老・ホタテ・ウニ・カニ、また年間を通じてご提供できるホエー豚など、四季折々の旬な食材を使用してご提供しています。

他にも、支笏湖の水と北海道の米を使ったお酒清酒の「初太郎」、九州鹿児島の酒蔵と提携して造った芋焼酎「丸駒」をご提供しています。芋焼酎の丸駒においては、提携している鹿児島の酒蔵に支笏湖の水を送って造っていただいています。

提供:丸駒温泉旅館

行者にんにくの瓶詰、清酒、芋焼酎は、旅の思い出としてお土産としてもお求めいただけるようにしています。

提供:丸駒温泉旅館

◇編集部:温かさに包まれ、自然と家族みんなの笑顔が増えるような空間で、こだわり抜かれた食事を楽しめるのはいいものですね。