温泉経営者がおすすめする一度は泊まりたい温泉宿#16 川原湯温泉-丸木屋-
目次
開湯800年の歴史と伝統ある川原湯温泉
◇編集部:次に川原湯温泉の歴史についてお伺いします。
◆樋田さん:川原湯温泉の開湯伝説は諸説ありますが、源頼朝が鎌倉幕府成立の翌年となる1193年に鷹狩りに来た際に発見したとされ、800年ほどの歴史があると伝えられています。
その際に着物を掛けたとされる数トンもの大きな衣石も、今回のダム工事の際に発掘されるなど、伝聞以外の事実も発見されています。
この開湯伝説に因んで共同浴場の「王湯(おうゆ)」では、源氏の紋所である笹竜胆(ささりんどう)を掲げています。
川原湯温泉が発見された後、一時期は温泉が枯れてしまったことがあるとされています。
しかし、当時のこの地の人々は源泉がゆで卵のような硫黄臭があることから、卵を産む鶏を供物として捧げて祈ったところ、再び源泉が湧出したとのことです。
これを祝って湯かけ祭という神事が始まり、現在も継承されています。
暦の上では一年で一番寒い日とされる大寒(だいかん)の朝に「湯かけ祭」という神事を行います。
夜明け前の早朝4時から日の出まで、褌一丁の出立ちで紅白に分かれ「お湯湧いた!」にちなんだ「お祝いだ!」の掛け声と共に、威勢良くお湯を掛け合うというものです。

提供:丸木屋(夜明け前、王湯の前に集合して始まる湯かけ祭)
◇編集部:歴史と伝統を継承し、また温泉地全体の移転という逆境をもバネに、それを新たな観光資源として活かして地域を活性化させる素晴らしい取り組みですね。
温泉地移転後もリピートのお客様が多く訪れる
◇編集部:お越しになるお客様はどちらからお越しになる方が多いのでしょうか?
◆樋田さん:関東圏からのお客様が多く、首都圏からであれば2時間ほどでお越しいただけます。
当館まで、公共交通機関であれば、JR吾妻線「川原湯温泉駅」から1km程度の距離です。
駅と直結した観光施設でグランピングなどができる川原湯温泉駅キャンプ場や、八ッ場あがつま湖の湖畔に沿った道もあります。
そのため、電車でお越しになられるお客様は、雄大な景観を楽しんで散策しながらといった方が多いですね。

出典:PIXTA(紅葉の八ッ場ダムと八ッ場あがつま湖)
◇編集部:のんびりと電車に揺られながら、景観を楽しむのも旅のいい思い出になりますね。
大人の隠れ家としてのんびりと過ごせる温泉旅館・丸木屋
◇編集部:つぎにお宿についてお伺いできますでしょうか?
◆樋田さん:丸木屋は、長い歴史の川原湯温泉の中では比較的新しく、創業70年余りです。
私は初代から数えて4代目となり、現在は当代館主である父をサポートしています。
もともと丸木屋は、この川原湯温泉で古くから旅館を営む家系の庶子であった曽祖父が、この地で商店をしていたところ終戦後の物資不足などから、本家より分家する形で、温泉宿を開業したことが丸木屋の礎となっています。

提供:丸木屋(ロビー)
◆樋田さん:当館の建つこの場所は、八ッ場ダム建設に伴う移転地域でもなかったため、創業以来この場所で温泉旅館を営んでおります。
当館は小さな宿ではありますが、季節を変えてお越しいただいても、新鮮にお楽しみいただけるよう、6つあるお部屋の全ては、窓の外に広がる景観と調和するよう趣の異なる造りとしています。
ただ皆様、最初にご滞在いただいたお部屋を気に入っていただいて、同じお部屋をご利用されることが多いですね。

提供:丸木屋(客室の一例)
◇編集部:バリアフリーに対する取り組みなどはされていらっしゃるのでしょうか?
◆樋田さん:全館バリアフリー対応とまではいきませんが、1階のお部屋については、車椅子でも入れるよう大きくしています。
そのほか、段差のある箇所には移動式スロープを用意して、浴室には手すりを設けるなど出来る限りの対応をしています。
また、温泉で湯浴みする場合にも貸切風呂のご用意もあるので、介護の方と一緒にご入浴いただけます。
◇編集部:細やかなおもてなしの配慮がされているのですね。
◆樋田さん:当館は、基本的に家族経営の小さな宿なので、高級旅館のようなおもてなしはできませんが、気兼ねなくゆっくりとお寛ぎいただけるよう心を込めておもてなしすることを心がけています。



