「神々の遊ぶ庭」の麓に湧く【トムラウシ温泉】源泉かけ流し|日本一コンビニから遠い秘境一軒宿と日本百名山の花畑
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湯あがり ぽか子
温泉大好き40年のベテラン。「一湯一会」を逃さないために、常に手ぬぐいを持ち歩いています。長年の経験で、お湯を触っただけで大体の泉質がわかる特技を持ちます。温泉好きが高じて、温泉ソムリエ・温泉観光アドバイザーの資格を取得。日本の宝である「温泉文化」を皆さんにお伝えできることが喜びです!
北海道上川郡新得町、大雪山国立公園の中心部・東大雪の山ふところに建つ「国民宿舎東大雪荘」は、新得市街地から車で約1時間・最後の7キロはダートの山道という立地にたたずむ一軒宿です。
アイヌの人々が「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」と崇めてきたトムラウシ山の麓から自然湧出する源泉(91.2℃・毎分140リットル)を温度調節して浴槽に注ぐかけ流しの湯は、ナトリウム塩化物・炭酸水素塩泉(pH8.1・弱アルカリ性)。
天高8メートルの広々とした内湯と清流ユウトムラウシ川を俯瞰する原生林の露天風呂が、登山者と温泉愛好家を等しく迎えています。
「日本一コンビニから遠い家」としてテレビで紹介されたこの宿は、まさにそのとおり。
携帯が圏外になる大自然の中で、源泉の硫黄の香りと川のせせらぎだけが時間を刻みます。
目次
東大雪の山奥へ 秘境の一軒宿と「神々の遊ぶ庭」の歴史

出典:トムラウシ東大雪荘
トムラウシ温泉は、北海道上川郡新得町屈足のユウトムラウシ川上流に位置しています。
道東自動車道・十勝清水ICから車で約90分、帯広空港から車で約120分、JR新得駅からは宿泊者向け無料送迎(要予約)または夏季限定バスで約90分というアクセスです。
新得市街地からは約60キロ、うち最後の7キロはダートの山道となりますが、冬でも除雪が入るため通年で車でのアクセスが可能です。
「トムラウシ」はアイヌ語に由来する地名で、「花の多いところ」「水草の生えているところ」「水垢の多いところ」など諸説があります。
ユウトムラウシ川はアイヌ語で「温泉のあるトムラウシ川」を意味し、この地に温泉が湧くことを先人たちはすでに知っていたのです。
大雪山国立公園の中心部という特別な環境下にある東大雪荘は、同公園内の施設として自然環境保護の意識も高く、キタキツネ・エゾリス・エゾシカ・ヒグマなど多くの野生動物が宿の周辺に姿を見せます。
運が良ければ夕暮れ時に宿の前の草原でエゾシカの群れに出会うことも珍しくありません。
トムラウシ山登山 花の百名山と絶景の岩稜を歩く

出典:新得町
東大雪荘はトムラウシ山(2,141メートル)への登山基地として全国から登山者が集まります。
トムラウシ山は大雪山系南部に位置し、「大雪の奥座敷」と称されるほど周囲の山々から奥深い場所にそびえます。
山頂直下の「トムラウシ公園」と呼ばれるロックガーデンには岩場・高山植物・沼が織りなす絶景が広がり、エゾカメノキ・チングルマ・イワブクロ・エゾルリムラサキなど多種多様な高山植物が夏(7〜8月)に一斉に咲き誇る「花の百名山」としても名高い存在です。
氷河期を乗り越えた希少生物「エゾナキウサギ」が山頂北側の岩礫帯に生息しており、運が良ければその姿と「ピッ」という甲高い鳴き声に出会えます。
東大雪荘からの登山口(温泉登山口)からは標準的なコースで往復12〜14時間前後かかる本格的な山行となります。
温泉に前泊して早朝に出発し、下山後に温泉で疲れを癒すというスタイルが定番で、登山者にとってこの温泉は「山頂と同じくらい楽しみにしていた」という体験者の言葉が後を絶ちません。
新得鶏・エゾシカ・ジャージー牛 秘境の食卓

出典:トムラウシ東大雪荘
東大雪荘の食事は、新得町が誇る地場産食材を活かした季節の料理が自慢です。
新得町はそば・地鶏・鹿肉・ジャージー牛乳の産地として知られています。
なかでも「新得地鶏」は放し飼いで育てた締まった肉質と旨みが特徴のブランド鶏で、焼き物・鍋物として食卓に登場します。
エゾシカ肉は大雪山の大自然で育った野性味あふれる赤身肉で、ステーキ・ソテー・煮込みなど多彩な調理法で提供されています。
トムラウシで育てたジャージー牛の濃厚な生乳を使った乳製品も食卓を彩り、ゆり根・椎茸・山菜など東大雪の山の幸が四季ごとに旬の味を届けます。
秘境の一軒宿ならではの「ここで食べるからこそ美味しい」体験が、登山の疲れとともに旅の記憶に刻まれます。
天高8mの内湯と川辺の露天風呂 源泉かけ流し体験

出典:トムラウシ東大雪荘
トムラウシ温泉の最大の特徴は、91.2℃という高温で自然湧出する源泉と、それを活かした浴場の豪快な設えにあります。
泉質は含硫黄ナトリウム塩化物・炭酸水素塩温泉(弱アルカリ性低張性高温泉)・pH8.1・源泉温度91.2℃・湧出量毎分140リットル(自然湧出)。
硫黄・塩化物・炭酸水素塩という三つの成分を併せ持つ複合泉で、ほのかな硫化水素臭が本物の温泉であることを鼻で教えてくれます。
弱アルカリ性の成分が肌の古い角質をやわらかく落とし、保湿成分メタケイ酸が肌に水分を閉じ込めて「美肌の湯」と評されます。
塩化物成分の保温効果で湯冷めしにくく、長距離登山で酷使した体の芯から熱が戻ってくる感覚が登山者を虜にしてきました。
内湯は天高8メートルという吹き抜けの開放的な造りで、山の岩肌をそのまま利用した豪快な設計が「パワースポットに入り込んだような感覚」と旅人に語られます。
高温・中温・低温の3槽に分かれており、好みの温度で長湯ができます。
源泉の蒸気を利用したミストサウナも特筆すべき体験で、91.2℃の源泉から立ちのぼるスチームを直接体に浴びる「源泉スチームサウナ」は通常のサウナとは別次元の温浴体験です。
露天風呂はユウトムラウシ川を真下に眺める絶好のロケーションで、2槽の温度の異なる浴槽から原生林の緑と清流の音に包まれながら入浴できます。夜はライトアップされ、ロマンチックな雰囲気が漂います。
トムラウシ温泉の源泉かけ流し概要

出典:トムラウシ東大雪荘
泉質: 含硫黄ナトリウム塩化物・炭酸水素塩温泉(弱アルカリ性低張性高温泉・旧泉質名:含重曹食塩泉)
pH: 8.1(弱アルカリ性)
源泉温度: 91.2℃(自然湧出)
湧出量: 毎分140リットル(自然湧出)
湯色: 無色透明・ほのかな硫化水素臭
温泉利用: 温度調節してかけ流し(加水調整・循環方式)
効能: 神経痛・筋肉痛・関節痛・慢性婦人病・慢性皮膚病・冷え性・慢性消化器病・切り傷・やけど・疲労回復・美肌
旅の余韻

出典:トムラウシ東大雪荘
91.2℃の源泉から立ちのぼるミストが肌を包み、ほのかな硫黄の香りが鼻をくすぐります。ユウトムラウシ川のせせらぎが露天風呂に届く夜、トムラウシ山の稜線が暗闇の中に溶けていきます。
「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」と呼ばれた山の麓で、エゾシカ肉と新得地鶏と山菜を腹いっぱい食べた後、携帯が圏外の静寂の中で湯に浸かる。
日本一コンビニから遠いこの場所まで来た理由が、源泉の湯気とともにすべて腑に落ちます。
明日の山行に向けて疲れた脚をほぐしながら、神々の庭に招かれたことへの静かな感謝が、温泉とともに体の奥に染み込んでいきます。



