全宿が「源泉かけ流し宣言」した大雪山の温泉郷【ぬかびら源泉郷】源泉かけ流し|糠平湖と幻のタウシュベツ川橋梁・東大雪の旅


出典:公益社団法人 北海道観光機構
2026年07月01日更新

この記事を書いた人

湯あがり ぽか子

温泉大好き40年のベテラン。「一湯一会」を逃さないために、常に手ぬぐいを持ち歩いています。長年の経験で、お湯を触っただけで大体の泉質がわかる特技を持ちます。温泉好きが高じて、温泉ソムリエ・温泉観光アドバイザーの資格を取得。日本の宝である「温泉文化」を皆さんにお伝えできることが喜びです!

北海道河東郡上士幌町、日本最大面積を誇る大雪山国立公園内に位置するこの温泉地は、2007年(平成19年)に旅館組合が北海道庁で発表した「源泉かけ流し宣言」のもと、9軒すべての宿が源泉を循環せずそのままかけ流す、という北海道でも稀有な徹底ぶりを守り続けています。

泉質はナトリウム塩化物・炭酸水素塩泉(重曹泉)・源泉温度50〜60℃。

無色透明でわずかに硫黄由来の湯の花が舞う湯は「美人の湯」と呼ばれ、肌をなめらかに整えながら飲泉でも胃腸病への効能が期待されています。

糠平湖に沈んだ「幻の橋」タウシュベツ川橋梁と、大正時代から続く湯治場の歴史。

大雪山の懐深くにあるこの温泉郷には、観光地化されすぎない静かな贅沢があります。

大正時代発見の湯治場へ 糠平湖と「源泉かけ流し宣言」の歴史

出典:上士幌町観光協会

ぬかびら源泉郷は、北海道河東郡上士幌町の市街地から北へ約23キロ、大雪山国立公園内・糠平湖の南西岸に位置しています。

道東自動車道・音更帯広ICから国道241号を経由して車で約60分、帯広市内から約1時間10分、JR帯広駅から十勝バス「ぬかびら源泉郷行き」で約110分というアクセスです。

上士幌町市街地から上川町間の約110キロにはガソリンスタンドがないため、上士幌でしっかり給油してから向かうことをおすすめします。

温泉の発見は大正7年(1918年)。湯元館初代館主・島隆美が上士幌の勢多川上流で鉱泉を発見し、翌大正8年に湯殿山(別名・湯元滝の湯)でも温泉を見つけたことに始まります。

大正13年(1924年)に小さな湯小屋を建て、翌年に旅館を開業。昭和9年(1934年)には15軒の宿が営業する十勝の奥座敷として、林業従事者の利用で賑わいました。
昭和31年(1956年)に音更川上流にダム湖・糠平湖が完成し、温泉街は森と湖の風景の中へと生まれ変わります。

2000年頃から個人旅行へと旅行形態が変化する中、宿の主人たちは全国の温泉地を訪ね歩いて議論を重ね、平成19年(2007年)に「源泉かけ流し宣言」を北海道庁で発表。

源泉の状態のまま客に提供する「源泉かけ流し」という価値の貴重さを再確認し、2009年(平成21年)には地名を「糠平」から「ぬかびら源泉郷」へと変更。

温泉文化を守るプライドとともに、新しい時代の温泉地づくりを進めています。


タウシュベツ川橋梁・糠平湖・ニペソツ山 東大雪の絶景を巡る

出典:上士幌町

ぬかびら源泉郷周辺には、北海道遺産に選定された貴重な鉄道遺構と東大雪の雄大な自然が広がっています。

「タウシュベツ川橋梁」は、旧国鉄士幌線が1939年(昭和14年)に開通させたコンクリートアーチ橋で、糠平湖のダム建設によって水没と水面上への姿を見せる時期を繰り返す「幻の橋」として全国に知られています。

湖の水位が下がる初夏には全長130メートルのアーチ橋が湖底から姿を現し、夏には水面に橋影が映る幻想的な光景、冬には湖が凍結し橋が氷の中から浮き上がるように見えるという、季節ごとに異なる絶景が楽しめます。

橋に直接立ち入ることは経年劣化のため禁止されているため、見学にはツアーへの参加が推奨されています。

「糠平湖」は周囲を原生林に囲まれた人造湖で、初夏から秋にかけてカヌー・釣り(ニジマス・ヤマベ・コイなど)・サイクリング・登山・森林浴が楽しめます。

秋には湖面に映る紅葉が見ものとなり、大雪山国立公園は「日本一早い紅葉」と称される針葉樹の紅葉地帯として9月中旬から10月上旬に黄金の絨毯のような景色が広がります。

また「ニペソツ山」「石狩岳」は登山愛好家から人気の高い名峰で、ぬかびら源泉郷はその登山基地としても機能しています。


川魚・山菜・囲炉裏料理 大雪山麓の食を味わう

出典:山の旅籠 山湖荘

ぬかびら源泉郷の宿の食事は、湯治場時代の素朴な味わいを今も受け継いでいます。

「糠平温泉ホテル」では宿主自ら釣ったニジマス・ヤマベなどの川魚や、大雪山麓の山菜を使った料理が評判です。

「山の旅籠 山湖荘」では珍しい洞窟風呂とともに囲炉裏での食事が楽しめ、火を囲みながらの食卓は他では味わえない体験になります。

「糠平館観光ホテル」では牛すき焼き・冷しゃぶ・帆立といった豪勢な食事付きプランも用意されています。

温泉街にはレストランが一軒、夏季にはカフェが二軒オープンするのみという小ささですが、それゆえに観光地化されすぎない、のんびりとした空気が流れています。


9軒すべてが源泉かけ流し 個性ある宿を渡り歩く

出典:糠平館観光ホテル

ぬかびら源泉郷の最大の特徴は、9軒の宿すべてが源泉かけ流しを実践していることです。

泉質はナトリウム塩化物・炭酸水素塩泉(重曹泉)。源泉温度は50〜60℃と高めなため、多少加水している施設もありますが、温泉を循環している宿はひとつもありません。

色は無色透明、わずかに硫黄由来の湯の花が舞うのは鮮度の高さの証で、入浴時は石けんなどで体に油膜をつくらず新鮮な源泉を全身で感じるのがこの温泉郷ならではの楽しみ方です。

「湯元館」はぬかびら源泉郷で最も歴史のある旅館で、自噴で毎分125リットルほど湧き出る湯量豊富な源泉を、川のせせらぎが聞こえる森の中の露天風呂・改装された内湯・檜風呂で楽しめます。
一棟貸しのコテージには専用の内湯と露天風呂も付いています。

「糠平館観光ホテル」は源泉郷最大の宿泊施設で、男女別大浴場とサウナ併設の露天風呂のほか、趣のある「仙人露天風呂」、混浴の露天風呂も備えています。

「中村屋」の露天風呂は混浴(女性専用時間帯あり)で、7歳くらいまでの子どもにはオリジナルの作務衣が用意されるなど家族連れへの配慮も。

「山の旅籠 山湖荘」のリアルな洞窟風呂は、薄明かりの中で源泉かけ流しの温もりを楽しむ独特の体験ができます。

複数の宿の温泉を1,200円で楽しめる「湯めぐり手形」も販売されており、湯元館前には無料の足湯もあるため、宿泊せずとも気軽に源泉かけ流しを体験できます。

上士幌町民はぬかびら源泉郷すべての温泉施設で入浴料が100円引きになる特典もあります。


ぬかびら源泉郷の源泉かけ流し概要

出典:山の旅籠 山湖荘

泉質: ナトリウム塩化物・炭酸水素塩泉(重曹泉・単純温泉・弱食塩泉。源泉井により多少異なる)

源泉温度: 50〜60℃(高温のため一部施設で加水あり・循環は一切なし)

湯色: 無色透明(わずかに硫黄由来の湯の花あり)

源泉かけ流し: 旅館組合「源泉かけ流し宣言」(2007年)・全9施設で実施・一部施設を除き飲泉可

効能: 神経痛・筋肉痛・関節痛・胃腸病(飲泉)・美肌

旅の余韻

出典:山の旅籠 山湖荘

無色透明の湯にわずかに浮かぶ硫黄の湯の花を見ながら、これが循環していない証なのだと実感します。

糠平湖の湖底に幻の橋が眠り、季節によってその姿を見せたり隠したりする。

その不思議な存在感と同じように、この温泉郷も観光地としての派手さを持たず、ただ静かに本物の湯を守り続けています。

コンビニも病院もない山奥で、9軒の宿がそれぞれの個性で迎えてくれる。

糠平館観光ホテルの仙人露天風呂、山湖荘の洞窟風呂、湯元館の森の中の露天風呂。

大正時代に島隆美が見つけた湯が、100年以上の時を経て今も変わらず原生林の奥で湧き続けていることに、静かな感動を覚えます。