ゾウの花子が5年間湯治した「熊の湯」【宮内温泉】源泉かけ流し|江戸時代発見・島牧の秘境一軒宿


出典:宮内温泉旅館
2026年06月19日更新

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湯あがり ぽか子

温泉大好き40年のベテラン。「一湯一会」を逃さないために、常に手ぬぐいを持ち歩いています。長年の経験で、お湯を触っただけで大体の泉質がわかる特技を持ちます。温泉好きが高じて、温泉ソムリエ・温泉観光アドバイザーの資格を取得。日本の宝である「温泉文化」を皆さんにお伝えできることが喜びです!

北海道島牧郡島牧村、日本海に面した渡島半島の付け根にある島牧村の泊川を遡ること約4キロ。
周囲に人家もなく、ひっそりと静まり返った山あいに「宮内温泉(ぐうないおんせん)旅館」は建っています。

別名「熊の湯」とも呼ばれるこの一軒宿は北海道でも指折りの古湯で、昭和46年(1971年)から5年間にわたって「ゾウの花子」が湯治のために滞在したという北海道温泉史に残るユニークな逸話を持っています。泉

質はナトリウム炭酸水素塩・硫酸塩泉(源泉温度48.8℃)・100%源泉かけ流し・飲泉可。赤い湯の花が浴槽の底に沈む素朴な湯は、メタケイ酸豊富な美肌の湯として温泉マニアに知られる秘湯です。

泊川の山奥へ 「熊の湯」と呼ばれた170年の歴史

出典:公益社団法人 北海道観光機構

宮内温泉は、北海道島牧郡島牧村の泊川沿い、日本海岸の国道229号から約4キロ山間部に入った場所に位置しています。

新千歳空港から車で約160分、函館から車で約2時間30分、JR函館本線・長万部駅から車で約60分というアクセスです。

公共交通機関は本数が少ないためマイカーでの訪問が現実的で、国道229号からの入口に案内看板があります。

発見は安政年間(1850年代)。

島牧村の猟師が泊川沿いの山中で、傷を癒している熊が湯壺に浸かっているのを目撃したことがきっかけとされています。

「熊の湯」という別名の由来はここにあります。

その後も村人たちの間で湯治場として細々と利用されていたこの湯が、旅館として正式に開業したのは昭和20年(1945年)のことです。

北海道では歴史の古い温泉地として知られており、レトロな木造の佇まいは昭和の湯治場文化をそのまま今日に伝えています。


ゾウの花子の湯治物語 5年間の島牧村での暮らし

出典:宮内温泉旅館

宮内温泉を全国に知らしめた最大の出来事が「ゾウの花子の湯治」です。

花子は1964年にタイのバンコクから日本の子どもたちへと贈られ、円山動物園を経て旭山動物園に移ったメスのゾウです。

しかし越冬中にくる病にかかり左後足が湾曲して立てなくなったため、動物園を手放さざるを得なくなりました。

紆余曲折を経て、昭和43年(1968年)に剥製・標本師の信田修治郎に引き取られた花子は、二股ラヂウム温泉での湯治を経て、昭和46年(1971年)11月に宮内温泉へとトラックの荷台に乗ってやってきます。

島牧村では村をあげて花子を歓迎し、宿の前の窪地に花子専用の大きな露天風呂と専用プレハブ「花子のおやど」を建設。

毎朝7時の健康診断、10時の食事、午後の歩く練習という規則正しい湯治生活を5年間にわたって続けました。

温泉の効能と信田氏の献身的な看護によって花子の病状は徐々に改善し、昭和51年(1976年)には暖かい本州へと旅立ちました。

「体の大きなゾウまで癒してしまう温泉」。

この逸話は宮内温泉の湯の力を最も雄弁に語るエピソードとして、今も訪れる人々の記憶に刻まれています。


泊川渓谷・狩場山・日本海 島牧の自然を巡る

出典:せなた観光協会

宮内温泉の周辺には、道南らしい手付かずの自然が広がっています。

温泉のすぐ先を流れる泊川が刻んだ「泊川渓谷」は、奇岩絶壁・若葉と紅葉・大小の滝が連続する景勝地で、秋の紅葉シーズンには特に美しい渓谷美が楽しめます。

遊歩道が整備されており、温泉の前後に渓谷散策を組み合わせる旅が定番コースです。

また島牧村を代表する山・「狩場山(標高1,520メートル)」は登山者に人気の山で、山頂からは日本海・積丹半島・渡島半島まで見渡せる大パノラマが広がります。

「大平山(標高1,119メートル)」とともに、秋は紅葉登山のフィールドとして多くの登山者が訪れます。

国道229号まで出れば島牧村の日本海沿岸が広がり、奇岩・断崖が続く景観美と漁港の素朴な風情がドライブの旅人を楽しませます。北西の風が強い冬には日本海の荒波が国道沿いに打ち付ける豪快な光景も見られます。


温泉米「ゆめぴりか」と島牧の食

出典:宮内温泉旅館

宮内温泉のもうひとつの自慢が「温泉米」です。

宿では温泉水を使って水田で育てた「宮内温泉米ゆめぴりか」を生産しており、宿泊客の食卓にはこの温泉米が炊きたてで振る舞われます。

ミネラル豊富な温泉水が育んだ米は粒が立ちほどよい甘みがあると評判で、「このご飯のためにまた来た」というリピーターも少なくありません。

温泉で体を整え、温泉の力で育った米を食べる——宮内温泉ならではの一体感ある食体験が、この一軒宿をただの温泉以上の存在にしています。

海の幸では日本海の新鮮な魚介が食卓に上り、島牧近海で水揚げされたヒラメ・ホタテ・ウニなど道南の海の恵みが地元の素朴な料理でいただけます。


赤い湯の花が舞う美肌の秘湯 源泉かけ流し体験

出典:宮内温泉旅館

宮内温泉の湯に入った瞬間、浴槽の底に赤い湯の花が舞い上がります。

これは源泉に含まれる鉄分が酸化してできた酸化鉄で、透明な湯の中に赤茶色の湯の花が漂う光景が、生きた源泉の鮮度を物語っています。

泉質はナトリウム炭酸水素塩・硫酸塩泉(中性低張性高温泉)・源泉温度48.8℃・100%源泉かけ流し・飲泉可。

炭酸水素塩が肌の古い角質をやわらかく落として美肌効果をもたらし、硫酸塩(芒硝)が血行を促進して体を芯から温め湯冷めを防ぎます。

さらにメタケイ酸(天然の保湿成分)を豊富に含み、湯上がりの肌がつるりとなめらかに整うと評判です。

湯量が豊富なため源泉のみで温度を調節しており、加水なしの生きた湯が外のパイプを通ってそのまま浴槽に注がれる光景は、温泉の原点そのものです。

内湯は少し熱めの小浴槽と適温の大浴槽の2槽に分かれ、露天風呂はやや温めで田園風景を眺めながらゆったりと長湯が楽しめます。

飲泉も可能で、ほのかな鉄分の風味があるミネラル豊富な温泉水を一口飲むと、体の内側から整っていく感覚があります。


宮内温泉の源泉かけ流し概要

出典:宮内温泉旅館

泉質: ナトリウム炭酸水素塩・硫酸塩泉(中性低張性高温泉・旧泉質名:含芒硝重曹泉)

源泉温度: 48.8℃

湯色: 無色透明・赤い湯の花(酸化鉄)が浴槽の底に沈む

源泉かけ流し: 100%源泉かけ流し・加水なし・湯量で温度調節・飲泉可

効能: リウマチ・神経痛・外傷・骨折・やけど・動脈硬化・高血圧症・脳卒中後遺症・美肌・冷え性

旅の余韻

出典:公益社団法人 北海道観光機構

錆びたパイプから源泉がどくどくと浴槽に注がれ、透明な湯の底で赤い湯の花がゆらゆらと舞っています。

熊が傷を癒し、ゾウが5年間通い続けた、この湯の原始的な力を感じる瞬間です。

温泉水で育てた「ゆめぴりか」の炊きたてを食べながら、花子が歩く練習をしていた露天風呂のあった窪地を思います。

人間も動物も等しく癒してきた170年の湯が、今夜も変わらず泊川の山奥で湧き続けています。道南の秘境まで来て初めて出会えるこの素朴な温泉が、旅人の心に静かに残ります。