「関東最後の紅葉」と黒湯の源泉かけ流し【養老渓谷温泉】コーヒー色の美肌湯と粟又の滝・房総の秘境を巡る旅
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湯あがり ぽか子
温泉大好き40年のベテラン。「一湯一会」を逃さないために、常に手ぬぐいを持ち歩いています。長年の経験で、お湯を触っただけで大体の泉質がわかる特技を持ちます。温泉好きが高じて、温泉ソムリエ・温泉観光アドバイザーの資格を取得。日本の宝である「温泉文化」を皆さんにお伝えできることが喜びです!
千葉県房総半島のほぼ中央、養老川が刻んだ深い渓谷に、不思議な色をした温泉が湧いています。
湯船に注がれた瞬間、目を疑うような濃いコーヒー色——これが養老渓谷温泉自慢の「黒湯」です。
大正3年(1914年)に井戸から鉱泉が湧き出して以来110年あまり、渓谷沿いに10数軒の湯宿が軒を連ねるこの温泉郷は、「関東一遅い紅葉」と「美肌の黒湯」を目当てに、都心から多くの旅人が訪れ続けています。
東京駅から車でわずか約1時間20分。箱根よりも近いこの秘境に、源泉かけ流しの黒湯が今日もこんこんと湧き続けています。
目次
「関東一遅い紅葉」と粟又の滝 房総の奥座敷が誇る四季の絶景

出典:フォトAC
養老渓谷温泉は、千葉県立養老渓谷奥清澄自然公園に指定され、房総の魅力500選にも選ばれた景勝地のただ中にあります。
四季のいずれに訪れても、そこには渓谷ならではの自然の表情が待っています。
なかでも最大の見どころが、「関東一遅い紅葉」と称される秋の景色です。
モミジ・ウルシ・クヌギ・ナラなどが赤・橙・黄に染まる見頃は例年11月下旬から12月上旬。
多くの紅葉スポットが色あせてしまう時期に、養老渓谷はいよいよ本番を迎えます。
紅葉シーズンには粟又の滝周辺のライトアップも開催され、闇に浮かび上がる幻想的な光景が多くの旅人を魅了しています。
渓谷随一の絶景が「粟又の滝」です。落差約30メートル、長さ約100メートルにわたってなだらかな岩盤を流れ落ちる千葉県内最大級のなめ滝で、別名「養老の滝」とも呼ばれています。
マイナスイオンたっぷりの遊歩道を歩きながら、滝つぼまで近づいてその豪快な流れを体感できます。
春の新緑、夏の清流、冬の氷柱と、四季ごとに異なる顔を見せてくれるのも粟又の滝の魅力です。
また、一軒だけ狭いトンネルを通らないと辿り着けない宿「川の家」や、出世観音を祀る朱塗りの観音橋など、渓谷の各所にひっそりと歴史が息づいています。
漫画家つげ義春も訪れ、その独特の風情に魅せられてしばらく滞在したことが随筆に記されているほど、この渓谷は訪れた者の心に静かに刻まれる場所です。
奥房総の食文化 竹の子・鮎・里山の恵み

出典:渓谷別邸 もちの木
養老渓谷温泉の宿の食卓は、奥房総の豊かな山と川の恵みで彩られています。
春の名物は「竹の子(たけのこ)」です。房総半島の山里で採れた筍は、柔らかく風味豊かで、煮物・刺身・土瓶蒸しなど多彩な調理で楽しめます。採れたての竹の子料理は、春の養老渓谷温泉を代表する旬の一品として広く知られています。
夏は清流養老川で育った「鮎」の季節です。香魚とも呼ばれる鮎の塩焼きは、川の香りをそのまま閉じ込めたような野趣ある味わいで、炭火で丁寧に焼き上げられた一本は旅の記憶に残ります。
秋から冬にかけては山菜・きのこが食卓を豊かにし、房総の鮮魚や猪豚鍋なども登場します。
山と海と川が近い房総ならではの食材の豊かさが、養老渓谷温泉の宿の夕食を特別なものにしています。
観音橋のほど近くには鯉こくや鮎塩焼きを出す食事処もあり、散策の途中に立ち寄れます。
黒湯とは何か 大正生まれのコーヒー色・美肌の源泉かけ流し

出典:温泉旅館 川の家
養老渓谷温泉の源泉は、大正元年(1912年)に個人宅の敷地から天然ガスが湧き出し、大正3年(1914年)、井戸より鉱泉が湧き出したことに始まります。
この鉱泉を天然ガスで加熱したのが養老渓谷温泉の始まりです。以来110年以上、渓谷に暮らす人々と旅人を温め続けてきた名湯です。
最大の特徴は何といっても「黒湯」と呼ばれる独特の湯色です。
植物などが長い年月をかけて堆積・分解してできたモール(腐植質)成分を豊富に含むため、浴槽に注いだ瞬間から濃いコーヒー色あるいは黒みがかった茶色を呈します。
湯船の底が見えないほど色の濃い黒湯は、養老渓谷温泉ならではの個性です。
泉質はナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉(またはモール泉系の炭酸水素塩泉)。
アルカリ性の湯はとろみのある肌触りで、入浴中から肌がつるつるとなめらかになっていく感覚が得られます。
湯上がりの爽快感と保温効果の高さも特徴で、「美肌の湯」として女性を中心に高い評価を受けています。
飲泉も可能な宿があり、2004年には千葉県飲泉許可第一号として認可されています。
源泉温度は20度前後と低いため加温して利用していますが、各宿が自家源泉を持ち、源泉かけ流しにこだわって新鮮な黒湯を絶えず浴槽に注いでいます。
玄関前に源泉が自噴し続けている宿もあり、訪れるたびに「生きた温泉」の力をじかに感じることができます。



