温泉経営者がおすすめする一度は泊まりたい温泉宿#12 寒の地獄温泉-寒の地獄旅館-
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かっきー
江戸の玄関口と言われた宿場町に生まれ育った生粋の江戸っ子。還暦を迎えた今なお、旅とサーフィンをこよなく愛するアクティブシニア。某夕刊紙に勤務していた経歴を持つ。
マイナーな温泉から秘湯まで、気の向くままに温泉へ出かけることが大好きです。温泉の良さはもちろん、分かりやすく温泉や旅館などの良さをお伝えしてまいります。
泉質に優れた名湯で、日頃の疲れをスッキリと流してくれる湯巡りの旅は、かけがえのない楽しみと言えるのではないでしょうか。温泉地選びには泉質もさることながら、その土地ならではのお料理や趣向を凝らした空間でもてなしてくれる「温泉宿」も欠かせません。本企画では、温泉経営者がプロの目線で選んだ「一度は泊まりたい温泉宿」をリレー形式でご紹介します。今回ご紹介するのは、古くから湯治客が訪れるという大分県の玖珠郡九重町(くすぐんここのえまち)にある寒の地獄温泉の「寒の地獄旅館」です。経営者にインタビューして伺いした魅力の数々をお届けします。
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目次
第12回は大分県玖珠郡九重町にある「寒の地獄旅館」
提供:寒の地獄温泉
第12回となる今回は、前回インタビューさせていただいた北海道支笏湖の「丸駒温泉旅館」の佐々木さんがおすすめする、大分県玖珠郡九重町にある「寒の地獄旅館」の経営者へインタビューしました。
寒の地獄温泉のある大分県玖珠郡九重町は、県南西部に位置する町。九州の屋根と呼ばれる九重連山(くじゅうれんざん)にあり、町域の大部分が手つかずの自然が広がる阿蘇くじゅう国立公園に指定されています。
寒の地獄温泉は阿蘇くじゅう国立公園内の九重山麓にあり、周囲はくじゅう連山や、多様な植物や水鳥の生き物が生息するタデ原(たでわら)湿原に囲まれた風光明媚な温泉地です。
寒の地獄旅館は寒の地獄温泉唯一の宿で、源泉からは、その名の通り13℃〜14℃の冷泉が豊富に湧き、様々な効用をもたらすとされています。古くから冷泉の湯治場として今もなお、多くの方が足を運んでいます。
また、九重町には標高1,000mを超える高い耕地もあることから気候変化も大きく、豊後牛や高原野菜、しいたけなど、さまざまな地産の食材にも恵まれています。
温故知新の精神で老舗温泉宿を継承する「寒の地獄旅館・武石真澄さん」
寒の地獄旅館 取締役 武石 真澄さん
◇らくらく湯旅編集部(以降 編集部):特別企画の第12回は、寒の地獄温泉「寒の地獄旅館」の4代目館主である武石さんにお話を伺います。お忙しい中ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
◆武石さん:よろしくお願いいたします。
春夏秋冬、彩鮮やかに移ろう壮大な自然に囲まれた温泉地
出典:PIXTA
◇編集部:希少な冷泉の湧く、寒の地獄温泉のある大分県玖珠郡の九重町はどのようなところですか?
◆武石さん:大分県玖珠郡の九重町は、一部を隣の熊本県にも繋がって広がる阿蘇くじゅう国立公園の中に位置し、標高800から1,200mほどの飯田高原(はんだこうげん)にあります。
徒歩圏内に歩いて渡る橋として日本で一番高いところにある九重“夢”大吊橋、また500mほど下った場所には、希少な植物や生き物が生息する国内最大級のタデ原湿原が広がるなど手つかずの自然に囲まれた環境にあります。
冬になると山は雪景色となり、車で15分ほどのところには九州では珍しいスキー場もあり、散策やいろいろなアクティビティーを体験していただけます。
出典:PIXTA
提供:寒の湯地獄旅館(九重“夢”大吊橋からの景観)
季節ごとに周囲の山や湿原には様々な草木や花が咲き乱れます。
春から秋にかけては一面が緑から青や赤に染まり、冬には雪景色の白銀となる彩鮮やかな景観を堪能いただけるなど訪れるたびに違う風景を見ながらの散策もお楽しみいただけます。
出典:PIXTA
九州は温暖な地ではありますが、寒の地獄温泉周辺は高地にあることから気候としては東北をイメージしていただくと判り易いかと思います。
冬は積雪もしますので、車でお越しになるお客様には、スタッドレスタイヤやチェーンをお持ちになるようご案内しています。
提供:寒の地獄旅館
◇編集部:国立公園にも指定される素晴らしい自然環境に恵まれた場所にあるのですね。
◆武石さん:国立公園内にあることから、宿の規模など様々な規制を受けてしまうのですが、恵まれた自然環境は湯治していただくお客様の癒しにも大切なものと考えています。
◇編集部:ありがとうございます。ところで、九重町の”九重”の読みは”ここのえ”で、周辺の九重連山などは”くじゅう”と読むのでしょうか?
◆武石さん:九重町(ここのえまち)の隣には、現在では市区町村の統廃合でなくなってしまいましたが、久住町(くじゅうまち)があったことから、周辺の山などは九重連山(くじゅうれんざん)、久住山(くじゅうさん)と言います。会話するときには”ここのえ”と”くじゅう”が入り混じって判り辛いのです。
◇らく湯旅:そのような歴史があったのですね。
江戸末期により湯治されていた歴史ある寒の地獄温泉
提供:寒の地獄旅館
◇編集部:つぎにお宿についてお伺いできますでしょうか?
◆武石さん:九重町には九つの温泉地があり、古くから九重九湯(ここのえきゅうとう)と呼ばれています。そのうちの一つが寒の地獄温泉です。
ただ寒の地獄温泉にある宿は当館「寒の地獄旅館」一軒だけとなっています。
寒の地獄温泉の源泉が発見されたのは、現在から170年少し前の江戸末期の嘉永2年(1849年)、猟師が山で狩りをしている際に傷を負った猿が冷たい水に使っているのを見て、これは効能があると感じて入浴したのがはじまりとされています。
その後、村人によって湯船が築かれて湯治していたことが寒の地獄温泉の礎となっています。
提供:寒の地獄旅館
昭和3年に私の曽祖父にあたる初代館主が、この地に寒の地獄旅館を築きました。湯治に訪れるお客様に長らくご愛顧いただき、私で4代目となります。
提供:寒の地獄旅館
現在のお宿は造りも改築されて、昭和の雰囲気を残してリノベーションした本館と、シックな趣にリノベーションした新館の客室棟のほか、平家の温泉棟があります。
現在ご提供できるお部屋は全11部屋で50名様ほどのお客様をお迎えできるようになっています。
提供:寒の地獄旅館
また、秘湯の温泉宿としては珍しく、全室に無料Wi-Fiが通じていて、VOD(ビデオ・オン・デマンド)もご覧いただけますので、お子様とご一緒にお越しいただいても、お部屋でご一緒に愉しんでいただけます。
希少な足元自然湧出の冷泉がふんだんに湧く源泉
提供:寒の地獄旅館
◇編集部:次に、温泉についてお伺いします。ご紹介いただいた奇跡の湯とも言われる源泉が湧く丸駒旅館の佐々木さんを持ってしても、人気の秘密に強い関心を持っていらした冷泉とはどのようなものなのでしょうか?
◆武石さん:そもそも冷たいのに温泉と言うところなのですが、くじゅう連山で当館より上に、江戸時代の昔から昭和にかけて硫黄を採取していた硫黄山があります。この山からの伏流水が岩盤を通って浄化され、当館に源泉として湧出しているものなのです。
泉質は単純硫黄冷鉱泉となり、効能ある温泉成分がしっかりと含まれていることから温泉と認められています。そして、通常の温泉の湯温と比べて冷たいことから冷泉と呼ばれているのです。
提供:寒の地獄旅館
足元自然湧出で、浴槽の底からぽこぽこと湧く源泉もあり、通年一定の13℃から14℃の一定温度の冷泉が湧いています。
足元自然湧出となっており、浴槽の底からぽこぽこと湧く源泉もあります。毎分2,000ℓ、ドラム缶に換算すると毎分10本分ほど湧出しています。
日本各地にも、冷鉱泉と呼ばれる冷たい温泉が湧く温泉地もありますが、これほど量がふんだんに湧出するのは他にはないと思います。
お湯はほのかにゆで卵のような硫黄の匂いがし、無色透明です。空気や浴槽に触れてうっすらと湯の花もつきます。
当館の温泉は弱酸性の硫黄泉となっているため、アトピーなどのお肌のトラブルにも効能があり、飲泉であれば整腸作用があるとされています。
提供:寒の地獄旅館
また高地にある九重九湯は、トレーニングに適した立地と関節や筋肉の疲労回復にも適した泉質であるため、夏場には全国の高校や大学の陸上部の合宿で訪れる方々も多くいます。
当館にもロードワーク後に冷泉でアイシングすることが、トレーニングで疲れた筋肉のクールダウンに適しているとのことで、実業団のアスリートなどにも例年ご愛顧いただいています。
◇編集部:素晴らしい自然の恵みですね。しかし13℃から14℃の源泉というと相当冷たいかと思いますが、冷泉にはどのように入浴するのでしょうか?
◆武石さん:冷泉は7〜9月の3ヶ月間に、水着着用でそのままご入浴いただけます。冷泉に浸かると含有される成分の刺激もあって、体感的にはとても冷たく感じます。
3分ほど経つと冷たさも和らぎます。そのまま、5分、10分とお客様に合わせて入浴した後、約50℃の暖房室に移って暖をとります。
この時、身体についた水滴はふかずに、そのまま暖房室のストーブの前で温まります。そうすることで、皮膚に温泉成分が染み込み、お肌のトラブルを始めとするさまざまな効果効能が期待できます。
提供:寒の地獄温泉
温泉の効能の他にも、逆サウナと呼ばれるこの入浴方法には、自律神経を整えると医学的にも効果のある療養法と言われています。
さらに、打たせ湯のように冷泉を頭の上から浴びられるようにもしています。これにより、古来の滝に打たれる滝行のように脳神経に作用するとも言われ、古くからご好評いただいています。
◇編集部:まさしく霊泉と呼ぶに相応しい効能ですね。この冷泉は通信販売もされていると伺いました。
◆武石さん:毎日のお肌のお手入れや、アトピーやお子様の汗疹などには、ご自宅でもご使用したいとのご要望にお答えして、源泉をお届けしています。
通常の温泉の場合には、封入するために温度を冷ましたりする必要があり、その過程で細菌などに触れてしまう恐れがあります。
しかし当館の源泉は13℃から14℃の冷泉が、一度も空気に触れない状態で封入密閉できるので、安心してご使用いただけます。冷暗所であれば1〜2ヶ月は保存いただけます。
◇編集部:お肌のトラブルでお悩みの方には朗報と言えますね。冷泉のほかにも、いわゆる一般的な暖かい温泉もあるのでしょうか?
◆武石さん:もちろんご用意致しております。冷泉を昔ながらの薪を焚いて加温して、源泉掛け流しで湯浴みいただける温泉があります。
男女別で日替わりで男女別としている切石と檜(ひのき)の内湯と、貸切温泉として半露天家族湯をご用意しています。
提供:寒の地獄旅館
切石と檜の内湯には、冷泉の浴槽を備えていますので、交互浴することもできます。
こちらは内湯で男女別なので通年、裸で湯浴みを楽しんでいただけます。また、家族湯には、檜、岩、切石と趣の異なる3種類の浴槽をご用意しています。
提供:寒の地獄旅館
◇編集部:加温するのに、薪を焚くのには相当なご苦労があるのではないでしょうか。
◆武石さん:薪割りには相当の労力が必要ですが、国立公園にも指定され、恵まれたこの地の自然を後世に残すためのカーボンニュートラルに配慮した取り組みです。
提供:寒の地獄旅館
◇編集部:自然に配慮した素晴らしい取り組みですね。
古き良き日本文化にこだわった囲炉裏を囲むお食事処
提供:寒の地獄旅館
◇編集部:お料理には、どのようなこだわりがあるのでしょうか?
◆武石さん:お食事処は全席、囲炉裏のお席をご用意しています。
ご家族ご友人と囲炉裏を囲み、阿蘇山の溶岩を使ったプレートで、事前予約のお客様には特産のおおいた豊後牛を、また九重町の特産である九重夢ポークという無菌豚、飼料にハーブを使って育てたハーブ鶏などを召し上がっていただきます。
提供:寒の地獄旅館
自然が広がる当館の周囲には歓楽街がないので、ゆったりと温泉とともにお食事を愉しんでいただけるよう、日本全国の秘湯のお宿からご紹介された厳選した日本酒を取り揃え、そのお酒に合う前菜プレートを必ずお出ししています。
全国から取り揃えた日本酒は少しずつ比べて楽しめるように3種飲み比べセットなどとしてご提供しています。
提供:寒の地獄旅館
お料理は型にはまらない創作会席料理として、酒肴も取り入れておもてなしさせていただいております。
お食事の食材は、あまり地産地消に固執せずに、あくまでも味を第一に選んでいます。
例えば、地元飯田高原の夏野菜のほか、秋田県名産のいぶりがっこにクリームチーズとナッツを和えたものや、福井県名産の鯖のへしこを切って炙ったものを前菜プレートとしてお出しすることもあります。
提供:寒の地獄旅館
◇編集部:風情溢れる囲炉裏の火を囲んでのお食事は、何よりの味付けになりそうですね。
寒の地獄旅館 武石さんがおすすめする温泉宿
◇編集部:「らくらく湯旅」ではリレー形式で温泉宿を紹介していきます。武石さんがおすすめする一度は泊まりたい温泉宿をご紹介いただけないでしょうか。
◆武石さん:私がおすすめする温泉は、山梨県の富士河口湖にある河口湖温泉の「湯けむり富士の宿 大池」です。
◇編集部:なぜそちらの旅館がおすすめなのでしょうか。
◆武石さん:こちらのお宿は、なんといっても客室や展望温泉から、朝・夕と表情を変える富士山を望む絶好のロケーションで、女将さんもアクティビティを実施していらして色々な体験ができることもおすすめする点です。
経営者の若旦那とも懇意にさせていただき、おもてなしの心遣いにも共感する点が多いことなどもおすすめするポイントですね。
<施設情報>
河口湖温泉「湯けむり富士の宿 大池」
・住所:山梨県南都留郡富士河口湖町船津6713-103
・電話:0555-72-2563
・アクセス:
<電車>新宿駅からJR中央線 直通快速で河口湖駅へ、河口湖駅より送迎バス
<車・高速バス>河口湖駅より、送迎バス
温泉好き「らくらく湯旅」ユーザーへのコメント
◇らく湯旅:最後に、「らくらく湯旅」ユーザーへ一言おねがいします。
◆武石さん:当館には温泉ファンならずとも、一度は体験していただきたいとても珍しい足元自然湧出の冷たい温泉の湧く源泉がございます。
冷泉をカーボンニュートラルに配慮して、昔ながらの薪を焚いて加温する源泉掛け流しの温泉もご用意しています。
四季折々に移ろう九重の自然の中、昔懐かしい薪を焚いて湯を温める香りや、囲炉裏を囲むお食事など、昔懐かしい情緒溢れる温泉旅館で、お客様の心身を癒していただけるようおもてなしさせていただきますので、是非ともお越しくださいませ。
◇編集部:本日はお忙しい中、お時間を頂戴いたしましてありがとうございました。
国立公園内の大自然に恵まれた環境にあり、この地の自然と古くからの伝統文化を継承し、さらに近年のテーマとなる持続可能な社会を築くために、温故知新の精神でイノベーションに取り組む経営方針とおもてなしの心遣いはとても素晴らしいものと感じました。
珍しい冷たい温泉を楽しむとともに、日頃の喧騒から離れ、贅沢な時を過ごしに、寒の地獄温泉を訪れてみてはいかがでしょうか。
<基本情報>
山の宿・霊泉 寒の地獄旅館
・住所:大分県玖珠郡九重町田野257番地
・電話:0973-79-2124
・ホームページ:http://kannojigoku.jp/
・アクセス:
<電車・バス>JR久大線豊後中村駅下車、九重登山口行きバスで約50分
<車>九重I.Cより約25分、湯布院ICより約40分