南部藩の秘湯・緑色に揺れる奇跡の薬湯【国見温泉】源泉かけ流し|秋田駒ヶ岳登山口に湧くエメラルドグリーンの名湯
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湯あがり ぽか子
温泉大好き40年のベテラン。「一湯一会」を逃さないために、常に手ぬぐいを持ち歩いています。長年の経験で、お湯を触っただけで大体の泉質がわかる特技を持ちます。温泉好きが高じて、温泉ソムリエ・温泉観光アドバイザーの資格を取得。日本の宝である「温泉文化」を皆さんにお伝えできることが喜びです!
浴槽に足を入れた瞬間、目を疑います。お湯が、緑色です。
岩手県雫石町、岩手県と秋田県の県境・奥羽山脈のただ中、標高約850メートルの山中にひっそりと湧く国見温泉は、天候や日照によってレモン色・エメラルドグリーン・濃緑色と色が変化する、全国でも極めて希少な薬湯です。
江戸時代から南部藩のお抱え湯治場として知られ、重曹含有量が岩手県の温泉平均の7倍という濃い成分が「一度浴して百病治る」と言わしめてきた東北屈指の名湯です。
目次
秋田駒ヶ岳の南麓へ 県境の秘境に2軒だけの温泉地

国見温泉は、十和田八幡平国立公園南口、秋田駒ヶ岳の登山口に位置しています。
宿は「石塚旅館」(日本秘湯を守る会)と「おんせん宿 森山荘」の2軒のみ。
どちらも自炊部を持つ湯治場の伝統を残しており、長期滞在で体の不調を治しに来る湯治客が今も多く訪れます。
石塚旅館は南部藩のお抱え湯治場だったこの温泉を、先祖が藩から譲り受けて以来6代にわたって守り続けている宿です。
自家発電のため携帯電話の電波も届かない環境が、デジタルデトックスを求める旅人にも支持されています。
冬季(11月上旬〜5月中旬)は休業となり、雪解けを待って開通する道路とともに温泉も生き返る。
この季節限定の秘湯感もまた、国見温泉の魅力のひとつです。
秋田駒ヶ岳登山と千沼ヶ原 東北の高山植物を歩く

出典: 田沢湖・角館観光協会
国見温泉は秋田駒ヶ岳(1,637メートル)の登山口として多くの登山客が利用します。
山頂まで約2時間半。
東北の高山植物の宝庫として知られるこの山は、6〜7月のコマクサ・チングルマ・ミヤマキンバイの群落が登山者を魅了します。特にコマクサは東北随一の規模と言われ、ピンクの可憐な花が広大な砂礫の斜面を埋め尽くす光景は忘れがたいものです。
また千沼ヶ原への縦走コースでは、無数の沼と高層湿原が織りなす幻想的な景色が広がります。
登山を終えて国見温泉のエメラルドグリーンの湯に体を沈める。
疲れ果てた体に薬効が染み込んでいく感覚は、秋田駒ヶ岳の旅の最高の締めくくりです。
山菜・岩魚・ジビエ 秘湯ならではの食卓

出典:おんせん宿 森山荘
国見温泉の宿の食事は、東北の山里ならではの素朴な食材が主役です。
森山荘の夕食には、清流で育った岩魚の塩焼き・ヤマメの料理のほか、イノシシやクマの肉といった本格的なジビエ料理が並びます。
春はフキノトウ・コゴミ・シドケなどの山菜、秋はキノコ料理と、宿の周辺の自然から直接届いた食材を素朴に調理した食卓は、都会では決して出会えない滋味に満ちています。
秋田駒ヶ岳の伏流水でキンキンに冷やされた湧き水でいただくビールやジュースも、湯上がりの楽しみのひとつです。
なぜ緑色に変わるのか 源泉かけ流し体験

出典:おんせん宿 森山荘
国見温泉のお湯がエメラルドグリーンに輝く理由は複数あります。
東邦大学の分析では、温泉に含まれる炭酸カルシウムと硫黄の微粒子がレイリー散乱で青く発色し、多硫化イオンの黄色と混ざることでグリーンの色彩が生まれるとされています。
さらに森山荘によると、源泉成分中に藻の一種が含まれており、紫外線に当たると光合成が始まって湯船いっぱいがエメラルドグリーンに変化するとも説明されています。
泉質は含硫黄・ナトリウム・炭酸水素塩泉(硫化水素型)。
重曹含有量は岩手県平均の7倍という濃さで、入浴者が少ない朝は湯船の表面にパリパリと割れるほどの湯の花の膜が張り、浸かった部分だけ肌が赤くなるという独特の反応が現れます。
1日20分ずつ3回の入浴が限度とされるほど効能が強く、慢性胃腸病・神経痛・リウマチ・皮膚病に顕著な効果があるとされます。飲泉も可能ですが、その味は「非常にまずい」と言われるほど濃いのがこの薬湯の個性です。
国見温泉の源泉かけ流し概要

泉質: 含硫黄・ナトリウム・炭酸水素塩泉(硫化水素型)
湯色: エメラルドグリーン〜レモン色〜濃緑色(天候・日照・時間帯により変化)
重曹含有量: 岩手県の温泉平均の7倍という濃い成分
源泉かけ流し: 自家源泉100%かけ流し・飲泉可(強烈な苦み)
入浴の目安: 1日20分×3回(効能が非常に強いため)
効能: 慢性胃腸病・神経痛・リウマチ・皮膚病
旅の余韻

出典:田沢湖・角館観光協会
緑色のお湯に浸かった瞬間、浸かった部分だけじわじわと肌が赤くなっていきます。
それが薬効が届いている証だと、隣の常連さんが静かに教えてくれます。
南部藩のお殿様も、リウマチを治しに通った先人たちも、みんなこの同じ色の湯に浸かってきた。
秋田駒ヶ岳の残照が山を染める夕暮れ時、エメラルドグリーンに揺れる湯の花を眺めながら、日本にまだこんな温泉が残っていることへの感謝が、静かに体に満ちてきます。



