津波を乗り越えた離島の秘湯【神威脇温泉】源泉かけ流し|奥尻島・日本海に沈む夕日と2種の湯・北追岬の彫刻群
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湯あがり ぽか子
温泉大好き40年のベテラン。「一湯一会」を逃さないために、常に手ぬぐいを持ち歩いています。長年の経験で、お湯を触っただけで大体の泉質がわかる特技を持ちます。温泉好きが高じて、温泉ソムリエ・温泉観光アドバイザーの資格を取得。日本の宝である「温泉文化」を皆さんにお伝えできることが喜びです!
日本海の夕日が赤く染まる頃、展望浴場の窓いっぱいに広がる水平線を眺めながら、熱い湯に体を委ねます。
北海道道南の日本海に浮かぶ奥尻島の最西端、神威脇漁港のすぐ隣に「神威脇温泉保養所」はあります。
1978年(昭和53年)開業のこの日帰り温泉施設は、地下30メートルから毎分285リットルで湧き出るカルシウム・ナトリウム塩化物泉を循環ろ過なしの源泉かけ流しで提供する、北海道の離島では希少な本物の温泉です。
1階には源泉そのままの赤茶色の湯、2階には鉄分を除去した澄んだ展望浴場と、2種類の個性の湯を楽しめます。
1993年の北海道南西沖地震と津波で甚大な被害を受けながら復興を遂げたこの島で、温泉は今も島民と旅人の心を温め続けています。
目次
奥尻島への旅 日本海に浮かぶ静かな島へ

出典:HOKKAIDO LOVE! LINE 公式アカウント
神威脇温泉(かむいわきおんせん)は、北海道奥尻郡奥尻町湯浜地区の神威脇漁港横に位置しています。
アクセスは函館港またはせたな港からのフェリーが基本ルートです。
函館港からは奥尻島のある奥尻港まで約4時間(津軽海峡フェリー)、せたな港からは約2時間10分(ハートランドフェリー)。
奥尻空港には丘珠空港(札幌)から1日1便が就航しており、飛行機では約40分で到達できます。奥尻港から神威脇温泉までは路線バスで約1時間10分、車では約45分です。
奥尻島は周囲約84キロ、人口約2,500人の小さな島です。
透明度の高い日本海と原生林に覆われた山並みが共存する豊かな自然環境を持ち、島全体が奥尻島自然環境保全地域に指定されています。
夏の短い北海道にあって、この島の夏は比較的温暖で澄んだ空気と静寂に包まれており、フェリーで渡るひと手間が旅人に「この島にしかない時間」を約束します。
北追岬公園・奥尻津波館・奥尻ワイン 島の歴史と文化を巡る

奥尻島を訪れるとき、1993年7月12日の北海道南西沖地震のことを避けて通ることはできません。
マグニチュード7.8の地震と大津波が島を襲い、198名の命が失われた。
その歴史を忘れないために「奥尻島津波館」が建てられ、ステンドグラスで198の光が犠牲者を追悼しています。
一番被害の大きかった青苗地区は震災後に公園化され、慰霊碑「時空翔」が青苗岬の空に向かってそびえています。
神威脇温泉のすぐそばにある「北追岬公園」には、世界的な彫刻家・流政之氏の作品8体が散策路に点在しています。
かつて北方領土を追われた人々がこの地に入植したことから、流氏が「北追岬」と名付けた作品をはじめ、望郷の思いを刻んだ彫刻群が日本海を見渡す岬の風に吹かれています。
夕日や星空の鑑賞スポットとしても人気が高く、温泉の前後に散策するのが奥尻流の過ごし方です。
震災をきっかけに誕生した「奥尻ワイン」は、潮風のミネラルを豊富に含む土地で育った山葡萄・メルロー・シャルドネ・ピノ・ノワールなど11種のぶどうを使った個性的なワインで、島を代表する土産品として全国に知られるようになりました。
アワビ・ウニ・奥尻ワイン 離島ならではの食体験

出典:奥尻島観光協会
奥尻島の食の主役は、透明度の高い日本海が育んだ新鮮な海の幸です。
奥尻のアワビとウニは磯の香りと濃い旨みで道内外からの評価が高く、島の民宿や食堂では地元の漁師が獲ってきた活アワビのお造りや蒸しアワビをリーズナブルな価格で堪能できます。
ホッケ・カレイ・ソイといった日本海の魚介も新鮮で、島で獲れた三平汁(さんぺいじる・塩漬けの魚と野菜を煮込んだ北海道の郷土料理)も温かくて滋味深い一品です。
温泉で体を温めた後、民宿で奥尻ワインを傾けながら地の海の幸をゆっくりといただく。
この島でしかできない夜の過ごし方が、訪れた旅人をリピーターにさせます。
1階の赤茶色と2階の展望浴場 源泉かけ流し体験

出典:奥尻島観光協会
神威脇温泉保養所の最大の個性は、1階と2階で異なる2種類の湯を楽しめることです。
1階浴場は源泉そのままの湯。赤茶色に色づいた、鉄分を豊富に含む濃い塩化物泉です。
湯の色が源泉成分の豊かさを物語っており、少し熱めの湯に体を沈めると、塩分が毛穴から染み込んで体の芯から熱が広がっていきます。
2階展望浴場は1階と同じ源泉から鉄分だけを除去した澄んだ湯。
大きな窓の向こうに広がるのは、遮るものが何もない日本海の大パノラマです。
晴れた日には水平線上に夕日が沈む光景が展望浴場から一望でき、「全国秘湯ランキング第7位」に選ばれたこともある眺めは、言葉を忘れさせるほどの美しさです。
どちらの浴槽も循環ろ過を行わない源泉かけ流し。
入浴後は大広間でゆっくりと体を休められ、地元の島民と旅人が同じ空間でほっと一息をつく光景が、この保養所の日常です。
神威脇温泉の源泉かけ流し概要

出典:奥尻島観光協会
泉質: カルシウム・ナトリウム-塩化物泉(中性低張性高温泉)
pH: 6.4(中性)
源泉温度: 64.3℃
湧出量: 毎分285リットル(地下30メートルから動力ポンプで汲み上げ)
湯色: 1階:赤茶色(源泉そのまま)/2階:無色透明(鉄分除去)
効能: 神経痛・筋肉痛・関節痛・打ち身・冷え性・リウマチ・皮膚病・慢性婦人病
旅の余韻

出典:奥尻島観光協会
フェリーで日本海を4時間揺られ、たどり着いた離島の温泉保養所。
展望浴場の窓の向こうで夕日が溶けていきます。赤茶色の湯で体を温め、澄んだ湯で見上げた水平線の広さ。
1993年の津波がこの島を飲み込んだ記憶が、津波館の198の光として今も生き続けているこの島で、温泉は震災の前も後も変わらずここで湧いています。
北方領土を追われた人々の望郷の彫刻が夕風に揺れる北追岬のすぐそばで、奥尻ワインをひとくち傾けながら、日本海の夜が更けていきます。



