「治らぬ病なし」大雪山の秘境一軒宿【然別峡かんの温泉】源泉かけ流し|13源泉・11湯船・足元湧出の名湯と野湯天国


出典:然別峡かんの温泉
2026年06月11日更新

この記事を書いた人

湯あがり ぽか子

温泉大好き40年のベテラン。「一湯一会」を逃さないために、常に手ぬぐいを持ち歩いています。長年の経験で、お湯を触っただけで大体の泉質がわかる特技を持ちます。温泉好きが高じて、温泉ソムリエ・温泉観光アドバイザーの資格を取得。日本の宝である「温泉文化」を皆さんにお伝えできることが喜びです!

明治40年(1907年)、宮城県出身の本郷兵吉が人跡未踏の原生林をかき分け、シイシカリベツ川の上流で湯の湧出を発見しました。

北海道河東郡鹿追町、大雪山国立公園内・標高約780メートルの然別峡の奥まった谷間。十勝平野の喧騒から遠く離れたこの秘境に、「治らぬ病なし」と呼ばれた一軒宿が114年以上の歴史を刻んでいます。

然別峡かんの温泉は、周囲の山肌から13か所の源泉が自然湧出し、加水・加温・循環・消毒を一切行わない源泉100%かけ流しで11の湯船を満たしています。

足元の岩の割れ目から直接湧き出す「イコロボッカの湯」、滝の音を聞きながら入る貸切露天風呂、湯の花が舞う深々とした内湯。

同じナトリウム塩化物・炭酸水素塩泉でありながら、源泉ごとに温度・色・湯の花・肌触りが異なる驚異の多様性が、温泉マニアをこの秘境へと引き寄せてやみません。

然別峡の奥へ 人跡未踏の谷に生まれた114年の秘湯

出典:然別峡かんの温泉

然別峡かんの温泉は、北海道河東郡鹿追町字然別国有林145林班という、地番がそのまま秘境ぶりを物語る場所に位置しています。

道東自動車道・芽室ICから国道274号・道道85号を経由して車で約60分、帯広市内からは約70分というアクセスです。冬も除雪された道路が通年確保されており、年間を通じて訪れることができます。

温泉の発見は明治40年(1907年)頃。本郷兵吉が人跡未踏のシイシカリベツ川上流で温泉を発見し、明治44年(1911年)に二間半と四間のわずか2棟の小屋を建てて温泉宿を始めたのが「然別峡かんの温泉」の始まりです。

以来「治らぬ病はなし」と呼ばれる名湯として湯治客に愛されましたが、平成20年(2008年)に旧経営者の都合で廃業。

施設は荒れ果てましたが、湯だけはこんこんと湧き続けました。

平成24年(2012年)に別会社が買収し、平成26年(2014年)8月に全面改築の上「然別峡かんの温泉」として復活。

「湯宿こもれび荘」(16室)に宿泊しながら、源泉かけ流しの名湯を心ゆくまで楽しめる秘境一軒宿として今日に至っています。


然別湖・ナキウサギ・とかち鹿追ジオパーク 大雪山東麓の旅

出典:しかりべつ湖コタン

然別峡かんの温泉を拠点にすると、道内でも希少な自然体験が旅のハイライトになります。

温泉から車で約20分の「然別湖」は、北海道で最も高所(標高810メートル)に位置する天然湖で、大雪山国立公園内の火山活動によって生まれました。

1万年以上の隔離進化を経た固有種「ミヤベイワナ(オショロコマの亜種)」が生息する極めて貴重な湖で、期間限定・人数制限で行われる特別解禁釣りは全国の釣り師が憧れる体験です。

湖畔では冬の「しかりべつ湖コタン」が毎年開催され、氷の湖上に作られた氷のホテル・露天風呂・カフェが幻想的な世界を生み出します。

また、然別火山群一帯は「とかち鹿追ジオパーク」として認定されており、岩石に作られた「風穴」の冷気が真夏でも0℃近い環境を保ち、高山植物や「ナキウサギ」の生息を可能にする特異な生態系が広がっています。

日本国内でも限られた場所にしか棲まない高山性の小動物ナキウサギをこの地で見られる確率は高く、温泉目当てと並んで「ナキウサギを探す旅」として訪れる旅人も多くいます。


十勝の大地の恵み 豚丼・ジャガイモ・鹿追の食

出典:然別峡かんの温泉

然別峡かんの温泉の宿泊施設「こもれび荘」のレストラン「夕来」では、十勝の食材を活かした料理が楽しめます。

十勝といえばまず「豚丼」。甘辛いたれで焼いた豚肉を白飯に乗せた帯広発祥のB級グルメは、十勝旅行の欠かせない食体験です。

また十勝は北海道を代表する農業地帯で、ジャガイモ・小麦・てん菜・乳製品など大地の恵みが日本の食を支えています。

鹿追町産の食材も豊富で、広大な牧場地帯で育てられた十勝牛・豚・乳製品が地産地消の食卓を彩ります。
日帰り入浴の旅人も宿のレストランを利用でき、山の中の一軒宿でありながら十勝の食が楽しめます。


13源泉・11湯船を渡り歩く 源泉かけ流しの究極体験

出典:然別峡かんの温泉

然別峡かんの温泉の最大の特徴は、周囲の山肌から自然湧出する13の源泉がすべて加水・加温・循環・消毒なしで11の湯船に注がれている点です。

源泉温度は35〜86℃と幅広く、湯の色・湯の花・肌触りが浴槽ごとに異なるため、「同じ泉質なのにこんなに違うのか」という温泉の奥深さを全身で体感できます。

浴室は「ウヌカル」と「イナンクル」の2棟に分かれ、夜20時に男女が入れ替わります。

ウヌカルには「ウヌカルアンナーの湯」(45.9℃)「ウヌカルアンノーの湯」(56.4℃・地下湧出)「波切の湯」(49.6℃)「シロカニペ(銀の滴)の湯」(41.5℃)が揃い、それぞれ湯の花の色や肌触りが微妙に異なります。

イナンクルには「イナンクルアンナーの湯」「イナンクルアンノーの湯」「春鹿呼の湯」「秋鹿鳴の湯」が並び、露天風呂2槽を含む開放的な構成です。

そして最大の目玉が「イコロボッカの湯」(こもれび荘1階)。
浴槽の底の岩の割れ目から源泉が直接湧き出す「足元自噴泉」で、空気に一切触れていない生まれたての源泉に浸かれる希少な体験です。
泉温48.5℃・メタケイ酸が豊富な保湿成分たっぷりの湯が絶えることなく足元から湧き続けます。

さらに宿泊者専用の貸切露天風呂「幾稲鳴滝の湯」は、滝の轟音を聞きながら原生林に囲まれた野趣あふれる露天で入浴できる極上の体験です。


周辺の野湯群 然別峡温泉天国をめぐる

出典:鹿追町役場

然別峡はかんの温泉だけでなく、周辺一帯が温泉天国です。

宿から約800メートルの「鹿の湯」(然別峡野営場内)は、ユウヤンベツ川沿いに湧き出す天然混浴露天風呂で、7〜9月に無料で開放されています(キャンプ場利用者)。
渓流沿いの岩肌から温泉が湧く半洞窟や広い露天風呂があり、野趣満点の湯浴みが楽しめます。

さらにかんの温泉から2キロ以内の山中には、「営林温泉」「テムジンの湯」「シリオパの湯」「キヌプの湯」「ビラの湯」「メノコの湯」など無数の野湯群が点在しており、宿のウェブサイトでは「禁断の野湯群 エルフランド」として紹介されています。

いずれも道なき道の探索が必要な真の秘湯で、然別峡という場所全体が大地の地熱エネルギーに満ちていることを教えてくれます。


然別峡かんの温泉の源泉かけ流し概要

出典:然別峡かんの温泉

泉質: ナトリウム塩化物・炭酸水素塩温泉(全源泉共通・旧泉質名は源泉ごとに異なる)

源泉温度: 35〜86℃(源泉により異なる)

源泉数・湯船数: 13源泉・11湯船

源泉かけ流し: 加水・加温・循環・消毒一切なし・自然湧出100%

効能: 皮膚病・胃腸病・婦人科疾患・神経痛・筋肉痛・関節痛・冷え性・疲労回復・美肌


旅の余韻

出典:然別峡かんの温泉

足元の岩の割れ目から、じわじわと温泉が湧き出してきます。

湯口がどこにもないのに、浴槽がじんわりと新鮮な源泉で満たされていく。

「治らぬ病なし」と言われた理由が、この生まれたての湯に浸かった瞬間、体で理解できる気がします。

施設が荒れ果てても、湯だけはこんこんと湧き続けた。

その事実が、この大地の途方もないエネルギーを証明しています。

13の源泉をひとつひとつ渡り歩きながら、それぞれの湯の花の色と肌触りの違いに驚き続ける夜が、然別峡かんの温泉の旅です。