レトロな風情を残す「渋温泉」。奈良時代から続くその歴史と楽しみ方
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ともきち
温泉が好きで、年に数回は友人や家族と国内旅行を計画し、色々な温泉地へ出かけています。温泉の中でも、濁り湯の露天風呂が特に好みです。旅先では、有名観光地や絶景スポットをひと通りまわり、地元の名物料理やお菓子の食べ歩きも欠かしません。旅好きならではの視点で、温泉地の情報や温泉にまつわる知識など、魅力あふれる記事をお届けします。
長野県にある「湯田中渋(ゆだなかしぶ)温泉郷」にある「渋温泉」は、ノスタルジックな情緒あふれる石畳の温泉地です。温泉郷内の共同浴場の数は、大分県の「別府温泉」に次ぐ国内第2位の軒数を誇り、9つの共同浴場の湯めぐりが人気を集めています。今回は、始まりが奈良時代に遡ると言われる、渋温泉の歴史、そして、ぜひ訪れたい観光スポットをご紹介します。
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目次
渋温泉とはどんな温泉?
渋温泉はどんな魅力を持つ温泉地なのでしょうか?
早速、渋温泉の魅力に迫ります。
レトロな街並みに魅了される渋温泉街
渋温泉の大きな魅力は、石畳の細い路地の両脇に木造の温泉宿や食事処、土産物屋、昔懐かしい遊び場が軒を連ねるレトロな街並みです。
小道を散策しながらめぐる外湯は情緒たっぷり。
また、武田信玄にゆかりのある「横湯山温泉寺」やスノーモンキーに出合える「地獄谷野猿公苑」などの観光スポットも見逃せません。
すべての宿で天然かけ流しの温泉に浸かれる!渋温泉の湯
渋温泉の源泉は約40ヶ所もあり、それぞれの源泉が温泉宿や共同浴場に引き込まれているため、宿や浴場の泉質や効能はさまざまです。
すべての宿で天然かけ流しの温泉に浸かれ、また、渋温泉の宿泊者には、無料で外湯(共同浴場)の鍵が貸し出され、苦(九)労を流すと謂われる「九つの外湯めぐり」を楽しむことができます。
「巡浴祈願手拭い」という手拭いにスタンプを押しながらめぐり、9つ集めたら最後は、九番湯の前にある渋薬師庵(しぶやくしあん)に参拝し、満願成就を願います。
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渋温泉と湯田中温泉の違い
湯田中温泉も渋温泉と同じく湯田中渋温泉郷の一つです。
渋温泉と隣あっていますが、駅に近い湯田中温泉には近代的な宿も多く渋温泉に比べて都会的な雰囲気があります。
また、渋温泉の湯の色は、白濁・褐色・無色透明などさまざまで、一方の湯田中温泉は透明な湯が中心です。
ちなみに、渋温泉の外湯めぐりは、渋温泉に宿泊した場合にしか利用できません(1ヶ所を除く)。
一方、湯田中温泉には、湯田中温泉の宿泊者だけが利用できる共同浴場が多数あります。
渋温泉の歴史とあゆみ
渋温泉の始まり
渋温泉には、非常に古い歴史があり、およそ1,300年前の奈良時代に仏教僧の行基菩薩(ぎょうきぼさつ)が全国行脚の際に発見したのが始まりとされます。
行基は渋温泉の地が霊泉だと悟ると、自ら薬師如来(やくしにょらい)像を彫刻し守護神として安置したと伝えられています。
行基が発見した源泉は、現在は「九番湯 大湯」となっていますが、幾度となく高台から土砂が流れ込んだため、それをかき出し源泉を守るという繰り返しにより、現在の「九番湯 大湯」は半地下のような作りになっていて、上(地上)には足湯があります(無料)。
鎌倉時代から戦国時代
京都の東福寺や南禅寺の住職を鎌倉時代後期から南北朝時代にかけ歴任した高僧の虎関師練(こかんしれん)が、渋温泉の地に温泉寺を建て、渋温泉と臨済宗(りんざいしゅう)を広めました。
戦国時代には、温泉寺を庇護(ひご)した武田信玄が渋温泉を開発させ、永禄4年(1561年)の川中島の戦いで負傷した家臣達を養生させました。この事から渋温泉は、「信玄の隠し湯」とも言われました。
江戸時代
渋温泉は、草津温泉(群馬県吾妻郡草津町)と上信濃(善光寺)を結ぶ草津街道の宿駅として、湯治客だけでなく旅人や物資の運搬者など多くの人々が利用するようになりました。
江戸時代後期には、さらに大きく発展し、飯盛女(めしもりおんな:宿場に存在した私娼)も認められました。
兵学者・朱子学者・思想家の佐久間象山(しょうざん)、俳人の小林一茶、浮世絵師の葛飾北斎などの文人もこの地を訪れています。
明治以降から現代まで
明治を過ぎると渋温泉の外湯めぐりが有名となり、小説家田山花袋(かたい)も渋温泉を訪れています。ちなみに、田山花袋は、著書である「温泉めぐり」では「信州の渋温泉は渋のようにベタベタする」と評しました。
さらに、歌人若山牧水(ぼくすい)、小説家夏目漱石など文人墨客(ぼっきゃく)も数多く湯治で訪れました。
渋温泉は行楽的な大きな開発がなかったため、今でも細い路地のような石畳の道に木造の温泉宿が軒を連ねたレトロな温泉街の風情を残しています。
歴史を感じる!渋温泉のおすすめ観光スポット9選
1. 昔ながらの情緒たたずむ温泉街の散策
渋温泉は、夜間瀬川(よませがわ)支流・横湯川(よこゆがわ)沿いに木造3層から4層建ての旅館が建ち並び、懐かしい格子窓や土壁があったり、廊下の欄干が張り出していたりと、昔ながらの情緒が佇む温泉街として知られています。
石畳を外湯めぐりの下駄を鳴らして散策するには、これ以上の風情はない温泉街の姿を残しています。
小道の両脇には、昔懐かしい射的場や無料の卓球場、地元の民話を集めた紙芝居のギャラリーなども並びます。
情緒あふれる温泉街の夜のそぞろ歩きもおすすめ。
次に紹介する「金具屋」をはじめとする旅館のライトアップされた姿は昼間とはまた違う魅力がたっぷりです。
外湯は22時まで、土産物屋や射的屋は21時過ぎまで開いているので、夜も時間を持て余すことなく楽しめます。
2. 千と千尋の神隠しのモデルと言われている宿「金具屋」
提供:金具屋
「金具屋(かなぐや)」は、宝暦8年(1758年)創業という長い歴史を持つ、由緒ある温泉宿。
江戸時代から地域の方々の心身を整える療養、遊興のために営業していました。
昭和初期からは交通手段の発展により観光客が増えましたが、太平洋戦争の最中には疎開の目的で、戦後は療養目的で、時代ごとに多くの方が訪れてきた歴史があります。
提供:金具屋
昭和4年(1929年)に建てられた「金具屋」の旧臨仙閣(りんせんかく)本館や旧臨仙閣浴堂、昭和11年(1936年)に建てられた斉月楼(さいげつろう)と大広間は、優れた温泉旅館建築が認められ、国指定有形登録文化財に指定されています。
宿泊客は毎日17時半から、金具屋の最大の魅力である建築や源泉、歴史的な話を聞ける「金具屋文化財巡り」に参加できます。
「金具屋」は、ジブリ映画「千と千尋の神隠し」に出てくる湯屋のモデルとも言われている場所です。
<施設詳細>
・施設名:金具屋
・住所:長野県下高井郡山ノ内町平穏2202
・電話番号:0269-33-3131
・宿泊料金(1泊2食、2名利用時):17,600円〜
3. 真田幸貫が本陣にしたと伝えられる宿「つばたや旅館」
「つばたや旅館」は、渋温泉で最も古い建物。
当時の藩主、真田幸貫(さなだゆきつら) が本陣にしたと伝えられており、館内にそのお宝や書状が残されています。
伯爵の身分の方々や松代藩主・佐久間象山、夏目漱石などの文豪も宿泊した場所として有名です。
提供:つばたや旅館
「つばたや旅館」では、大正時代に宮大工による木組みで造られた、釘を一切使っていない貸切風呂をぜひお試しください。
<施設詳細>
・施設名:つばたや旅館
・住所:長野県下高井郡山ノ内町渋温泉
・電話番号:0269‐33-2165
・宿泊料金(1泊2食、2名利用時):11,150円〜
4. 渋温泉を発見した行基菩薩に由来する「渋薬師庵」
提供:山ノ内町観光連盟
「渋薬師庵」の創建は、神亀(じんき)年間(724〜729年)。渋温泉の始まりとされる行基菩薩に由来します。
現在の御堂は、昭和6年(1931年)に再建されたもので、入母屋(いりもや)、銅瓦棒葺(かわらぼうぶき)、妻入(つまいり:入母屋屋根の建物で、建物の短辺の側に出入口を設けてそれを正面とするもの)、1間唐破風向拝(からはふこうはい:社寺の本殿や本堂の正面に礼拝のために設けられた張り出し部が、日本の城郭建築などにみられる頭部に丸みをつけて造形した破風の一種になっている)が特徴です。
薬師如来は疾病治癒、延命、災禍消去を司る仏である事から法薬、医薬を持って全ての病を治すとされます。
本来、仏や仏教は現世でそれらを信じれば、死後、極楽に行けるといった宗教観ですが、薬師如来は現世で御利益があるという珍しい仏様です。
渋温泉にある9つの外湯をめぐった後に、「渋薬師庵」に最後に参拝すると念願成就すると云われています。
毎年5月、10月には例祭(行基祭:温泉祭)が盛大に行われます。
<施設詳細>
・施設名:渋薬師庵
・住所:長野県下高井郡山ノ内町 渋2208
5. 効能の異なる外湯をめぐって九(苦)労を流し、満願成就「九湯めぐり」
提供:山ノ内町観光連盟
先ほども紹介したように渋温泉の宿泊客は、9つすべての外湯を無料で利用できます(「九番湯 渋大湯」のみ日帰り温泉客も利用可能)。
提供:山ノ内町観光連盟
外湯の温泉はどこも同じナトリウム・カルシウムー硫酸塩・塩化物温泉ですが、それぞれの源泉や混合割合が異なります。
効能は、眼疾や外傷性の障害などさまざまです。
「祈願手ぬぐい」にスタンプを押しながら外湯をめぐり、最後に「渋高薬師」へ参詣すれば、満願成就でき、九(苦)労を流し、厄除け、安産育児、不老長寿のご利益を受けられるといわれています。
6. 武田信玄にゆかりのある「横湯山温泉寺」
提供:山ノ内町観光連盟
「横湯山温泉寺」は、弘治2年(1556年)に開山した曹洞宗の寺です。
武田信玄にゆかりのある場所で、かつて川中島合戦の兵士が傷を癒やしたとされる温泉が境内にあり、パワースポットとして地元の方にも人気があります。
4つに区切られた足湯があるので、参拝ついでに気軽に無料で楽しめます。
日光東照宮の三猿(見ざる、言わざる、聞かざる)と、対になった逆三猿(見る、言う、聞く)の石像も見どころです。
<施設詳細>
・施設名:横湯山温泉寺
・住所:長野県下高井郡山ノ内町平穏2267‐3
・電話番号:0269-38-0246
・拝観時間:12:00~14:00
・定休日:不定休
7. 散策時に立ち寄りたい食べ歩きグルメスポット
渋温泉には、食べ歩きスポットもたくさんあります。
提供:小古井菓子店
老舗菓子店「小古井菓子店」のおすすめは、まん丸のパンにうずまき状のカスタードクリームが乗った「うずまきパン」(130円)やずっしりとした黄身餡が詰まった饅頭「老ノ松」(130円)。
提供:小古井菓子店
近くに「地獄谷野猿公苑」がある渋温泉ならではの可愛いサルの顔の金太郎飴「モンキーあめ」(150円)もあります。
提供:羽田甘精堂
「羽田甘精堂(はたかんせいどう)」の信州味噌の甘ダレが詰まった1口サイズの餅菓子「はやそばもち」(12個入、720円)も人気です。
提供:小古井菓子店
9つ仕切りのある「いとをかし箱」(箱代のみ、300円)を購入すれば(菓子店などで購入可能)、気になる自分好みの渋温泉土産が作れます。
パッケージのデザインも素敵で喜ばれること間違いなしです。
8. 旅の疲れを癒してくれる足湯スポット
渋温泉には、誰でも無料で浸かれる足湯が3つあります。
1つは先ほど紹介した「横湯山温泉寺」の足湯で、あと2つは、九番湯 大湯の屋上にある足湯「のふとまる」と「信玄足湯」です。
「のふとまる」とは、北信(ほくしん)地方の方言で「あたたまる」という意味。
大湯と同じ源泉から引く、鉄分で茶褐色に濁った湯で温まります。
「信玄足湯」は、大きさの違う石が敷き詰められており、ツボ押しでより心地よいひと時を過ごせます。
2周ほど歩き回ると足の疲れがすっきりとれて軽くなるので、散策の途中で立ち寄るのにおすすめのスポットです。
<施設詳細>
・施設名:足湯 足休処 信玄
・住所:長野県下高井郡山ノ内町大字平穏2094
・拝観時間:8:00~22:00
・定休日:なし
9. スノーモンキーに出会える「地獄谷野猿公苑」
提供:地獄谷野猿公苑
「地獄谷野猿公苑」は、険しく切り立った崖に囲まれ噴煙を上げる地獄谷にあり、渋温泉では一番有名な観光地となっています。
ヒトとニホンザルを隔てる柵がなく、ニホンザルと同じ空間で、より自然に近い状態で暮らすサルの様子を自由に観察することができるのが魅力。
猿たちは、スノーモンキーとして広く世界中の人々に愛されており、寒い冬には温泉にまったり浸かる、なんとも愛らしい様子に癒されます。
<施設詳細>
・施設名:地獄谷野猿公苑
・住所:長野県下高井郡山ノ内町大字平穏6845
・電話番号:0269-33-4379
・営業時間:夏季(4~10月ごろ)8:30~17:00、冬季(11~3月ごろ)9:00~16:00 ※営業時間は概ねの目安。野猿公苑のニホンザルは野生動物のため、天候、季節、ニホンザルの行動などにより予告なく変動する可能性あり。
・定休日:なし
・入場料:大人800円、子供(小学生~高校生)400円
渋温泉へのアクセス
公共機関でのアクセス
・【東京より】→JR北陸新幹線で「長野駅」まで約85分
・【新大阪より】→JR東海道新幹線に乗り「名古屋駅」でJR中央本線特急に乗り換え「長野駅」まで約3時間42分
・【金沢より】→JR北陸新幹線で「長野駅」まで約1時間30分
「長野駅」→ 長野電鉄湯田中行き特急で約50分、「湯田中駅」下車。湯田中駅から上林行きのバスに約7分乗り、「渋温泉入り口」にて下車。または、タクシーで5分。
車でのアクセス
・【関東方面より】→関越・上信越自動車道の「練馬IC」から「藤岡JCT」・「更埴JCT」を通過し「信州中野IC」で降りて渋温泉へ到着。所要時間は約3時間
・【関西・中京方面より】→中央自動車道の「吹田IC」から「小牧JCT」・「岡谷JCT」・「更埴JCT」を通過し「信州中野IC」で降りて渋温泉へ到着。大阪からの所要時間は約5時間50分。名古屋からの所要時間は約3時間50分
・【新潟方面より】→北陸自動車道の「新潟西IC」から「上越JCT」を通過し「信州中野IC」で降りて渋温泉へ到着。所要時間は約2時間30分
渋温泉に関するよくある質問
情緒あふれる風情で注目度を集める渋温泉。
最後に、渋温泉に関するよくある質問とその答えをチェックしておきましょう。
Q1. 渋温泉は何県にある温泉?
渋温泉は、長野県北部にある「湯田中渋温泉郷」の一つ。
住所は、長野県下高井郡山ノ内町です。
レトロな街並みで知られ、37本もの源泉を持つ長野県内で最も人気の高い温泉とも称されるほどの温泉地です。
Q2. 渋温泉の雪はいつからで、いつまで注意が必要?
渋温泉へ行く際、積雪の予想される12月中旬以降から3月中旬ごろまでの時期は、必ずスノータイヤかタイヤチェーンを装着しましょう。
また、冬になると、国道292号線の志賀草津ルートと、渋温泉から「野猿公苑」のある地獄谷に通じる道の2本が通行止めになります。
Q3. 渋温泉の外湯とは?日帰り温泉の利用はできる?
渋温泉には、9つの効能が異なる外湯があり、すべてをめぐって、最後に「渋高薬師」へ参詣すれば、満願成就するといわれています。
基本的には地元の方と宿泊者のみが利用できますが、うち1つは日帰り温泉として観光客でも浸かれます。
また、日帰り入浴ができる旅館もあります。
Q4. 渋温泉でおすすめのグルメスポットは?
渋温泉のグルメは、蕎麦はもちろん、信州サーモンや馬刺し、猪肉など信州の素材が生かされたグルメを満喫できるグルメスポットが多数あります。料理のジャンルも和食、ラーメン、イタリアン、欧風料理とさまざま。地ビールや地酒を堪能できるスポットもありますよ。
渋温泉へ。歴史あふれる温泉街を散策しながら外湯めぐりを愉しむ旅に出かけよう。
渋温泉の温泉街を散策すると、行基が発見したと言われる九番湯をはじめとする「外湯」や武田信玄にゆかりのある「横湯山温泉寺」、老舗旅館「金具屋」など、街の至るところでその歴史の深さを知ることができます。
渋温泉の歴史を間近で感じながら、温泉やグルメを愉しむ旅に、出かけてはいかがでしょうか。