日本初の地熱発電所の地に湧く【松川温泉】源泉かけ流し|八幡平国立公園の乳白色硫黄泉と岩手の山里料理
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湯あがり ぽか子
温泉大好き40年のベテラン。「一湯一会」を逃さないために、常に手ぬぐいを持ち歩いています。長年の経験で、お湯を触っただけで大体の泉質がわかる特技を持ちます。温泉好きが高じて、温泉ソムリエ・温泉観光アドバイザーの資格を取得。日本の宝である「温泉文化」を皆さんにお伝えできることが喜びです!
湧き出た瞬間は無色透明。しかし空気に触れた瞬間から、緑青を溶かし込んだような乳白色に変わっていきます。
岩手県八幡平市、十和田八幡平国立公園のただ中、ブナとミズナラの原生林に囲まれた渓流沿いに「松川温泉」はあります。
1743年(寛保3年)の開湯以来、1966年(昭和41年)には日本で初めて地熱発電所が置かれるほど豊かな地熱に恵まれたこの地で、単純硫黄泉のやわらかな乳白色の湯が今日も旅人を迎えています。
目次
八幡平の森へ 2つの百名山に挟まれた秘湯

松川温泉は、岩手県八幡平市の十和田八幡平国立公園内に位置しています。
日本百名山の岩手山(2,038メートル)と八幡平(1,614メートル)という2つの百名山に挟まれた豊かな自然の中にあり、ブナ・ミズナラ・ナナカマド・カエデなどの落葉広葉樹の原生林が温泉地全体を包んでいます。
宿は峡雲荘と松川荘の2軒のみで、どちらも地熱発電所の余熱を館内暖房や融雪に活用しており、環境負荷を最小限に抑えた持続可能な運営を実践しています。
1966年に日本初の地熱発電所として稼働を開始した松川地熱発電所は温泉地のすぐそばにあり、この地がいかに豊かな地熱エネルギーに恵まれているかを物語っています。
八幡平ドラゴンアイ・八幡沼トレッキング 東北の高山を歩く

松川温泉を拠点にすると、八幡平の絶景トレッキングが旅のハイライトになります。
「八幡平ドラゴンアイ(鏡沼)」は5月中旬〜6月中旬の限られた期間にしか現れない幻の絶景で、雪解けの時期に沼の氷が独特のパターンで溶けて現れる、竜の瞳のような自然アートです。
毎年SNSで話題を呼び、東北を代表する春の絶景として全国から旅人が訪れます。
秋は八幡沼を1周する約3時間のトレッキングが紅葉シーズンのおすすめコースです。
湿原・コバルトブルーの沼・原生林の紅葉が重なる景色は、温泉の乳白色の湯けむりとともに、松川温泉の旅を特別なものにしてくれます。
ホロホロ鳥・短角牛・山菜 岩手の山里料理

出典:峡雲荘
松川温泉の宿の食事は、岩手・八幡平産の個性的な食材が主役の山里料理です。
峡雲荘の名物「ホロホロ鳥鍋」は、フランス原産の鳥をこの地で育てたジビエに近い旨みと食感が特徴の希少な食材です。
「幻の魚」とも呼ばれる岩魚・イトウのお刺身、岩手県産「いわて短角牛」の陶板焼き。
赤身の旨みが凝縮したこの和牛は、霜降り主体のブランド牛とはまた異なる野性味あふれる美味しさです。
春はフキノトウ・ワラビ・ゼンマイ、秋はナメコ・マイタケ・ボリと、宿の周辺で採れた山の幸が季節ごとに食卓を彩ります。
いずれも部屋食でゆっくりと楽しめます。
手桶で汲む乳白色の湯 源泉かけ流し体験

出典:峡雲荘
松川温泉の泉質は単純硫黄泉(硫化水素型)、泉温約70℃・pH5.7(弱酸性)。
湧出時は無色透明ですが、空気に触れた瞬間から緑青を溶かし込んだような乳白色に変色します。
この色の変化が源泉の新鮮さの証であり、全浴槽が源泉かけ流しで常に生まれたての湯を体感できます。
硫黄成分は強いものの弱酸性のため肌がピリピリすることはなく、やわらかくなめらかな肌触りです。
ただし硫黄成分が金属を腐食させる性質を持つため、浴室内にはシャワーの設備がなく、ヒバ造りの樋から手桶でお湯を汲んで体や髪を洗う昔ながらのスタイルが今も続いています。
この「不便さ」こそが松川温泉の秘湯らしさを守っています。
峡雲荘では「湯守」が朝晩2回湯に入り、温度・量・肌触りを体で確かめながら調整する伝統を大切に守っており、2024年6月には大浴場がリニューアルされました。
松川温泉の源泉かけ流し概要

出典:峡雲荘
泉質: 単純硫黄泉(硫化水素型)
pH: 5.7(弱酸性・肌に優しい)
泉温: 約70℃
湯色: 湧出時は無色透明→空気接触で乳白色に変化
源泉かけ流し: 全浴槽源泉かけ流し・加温なし(加水あり)・シャワーなし
効能: 神経痛・リウマチ・皮膚病・糖尿病
旅の余韻

出典:松川荘
手桶でお湯を汲み、緑青を溶かし込んだような乳白色の湯に体を沈める。
シャワーのない浴室で、昔と変わらない作法で湯と向き合う時間が、ここにはあります。
日本初の地熱発電所を生んだほどの大地のエネルギーが、今日もブナの原生林の地底から湧き続けています。
八幡平ドラゴンアイの幻想的な景色、ホロホロ鳥鍋の滋味、そして乳白色の露天風呂から眺める東北の四季。
盛岡からバス1本でたどり着ける秘湯が、これほど深い旅を用意してくれています。



