津山藩主が独り占めした「鍵湯」【奥津温泉】源泉かけ流し|美作三湯・足踏み洗濯と足元湧出の美人湯


出典:奥津荘
2026年05月14日更新

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湯あがり ぽか子

温泉大好き40年のベテラン。「一湯一会」を逃さないために、常に手ぬぐいを持ち歩いています。長年の経験で、お湯を触っただけで大体の泉質がわかる特技を持ちます。温泉好きが高じて、温泉ソムリエ・温泉観光アドバイザーの資格を取得。日本の宝である「温泉文化」を皆さんにお伝えできることが喜びです!

「この湯は独り占めにしたい」そう思ったのは、旅人だけではありませんでした。

岡山県苫田郡鏡野町、吉井川沿いに風情ある老舗旅館が並ぶ奥津温泉には、江戸時代に津山藩主・森忠政が番人を置いて鍵をかけ一般の入浴を禁じたという「鍵湯」が今も残っています。

その泉質の良さがあまりにも際立っていたため、藩主が独占したというこの名湯は、大手化粧品メーカーが商品の原料に使うほどの美肌効果を誇り、「美作三湯」のひとつとして今も多くの旅人を集めています。

中国山地の山里へ 吉井川沿いの温泉街

出典:奥津荘

奥津温泉は、岡山県北部・鏡野町の中国山地のなかに位置しています。

中国自動車道・院庄ICから国道179号を経由して車で約25分、JR津山駅からバスで約59分でアクセスできます。

吉井川に架かる奥津橋を中心に数軒の老舗旅館と民宿が並ぶ小さな温泉地で、昭和の湯治場の雰囲気をそのまま残す佇まいが温泉好きから高く評価されています。

1926年に大規模な火災で温泉街を焼失しているため現存する建物は昭和初期以降のものですが、奥津荘は国の登録有形文化財に指定された歴史ある建物です。

14世紀の文献には開湯の記録があるとされ、戦国時代にはこの地で傷を癒した武将の記録も残ります。

与謝野鉄幹・晶子夫妻、版画家・棟方志功(1948〜53年頃にたびたび訪問)など多くの著名人にも愛されてきた名湯です。


奥津渓・棟方志功・映画「秋津温泉」 文化と自然を巡る

出典:一般社団法人 鏡野観光局

温泉地のすぐそばには名勝「奥津渓」が広がります。

花崗岩が侵食されてできた奇岩・甌穴(おうけつ)・滝が連なる渓谷美は、秋の紅葉シーズンに特に美しく、遊歩道から四季折々の景観が楽しめます。

また奥津温泉は直木賞作家・藤原審爾の小説『秋津温泉』の舞台として知られ、1962年に女優・岡田茉莉子主演で映画化されたことで全国にその名が広まりました。

温泉街には文人墨客が残した詩碑が点在しており、山の静寂の中でその言葉と向き合う時間も、奥津温泉の旅の深みのひとつです。


山菜・川魚・郷土料理 美作の食

出典:奥津荘

奥津温泉の宿では、中国山地の山の幸を使った郷土料理がもてなします。

吉井川の清流で育った川魚・山菜・きのこを中心とした素朴な会席料理は、温泉で整った体に自然のやさしさを届けてくれます。

道の駅奥津温泉では地元で採れた新鮮野菜や山菜・特産品が並び、温泉後の立ち寄りスポットとしても人気です。


足踏み洗濯と鍵湯 源泉かけ流し体験

出典:一般社団法人 鏡野観光局

奥津温泉の象徴的な風景が「足踏み洗濯」です。

奥津橋のたもと、川沿いの洗濯場で姉さんかぶりに赤い腰巻き姿の女性たちが「奥津小唄」に合わせて洗濯物を足で踏んで洗う。

これはpH9.2の温泉水が持つ漂白効果を利用して、熊や狼を見張りながら立ったまま家事をこなした生活の知恵が起源です。(2023年8月の台風被害により現在復旧工事中)

泉質はアルカリ性単純温泉・pH9.2・無色透明。

毎分約1,000リットルの豊富な自噴泉が宿に引かれており、特に奥津荘の「鍵湯」は浴槽の底から源泉が直接湧き出す足元自噴泉で、加熱・加水・循環なしの究極のかけ流し体験ができます。

アルカリ性の成分が肌の古い角質を溶かして洗い落とし、湯上がりに白くすべすべの肌になれると、化粧品メーカーがこの泉質を原料に採用するほどの美肌効果は折り紙付きです。


奥津温泉の源泉かけ流し概要

出典:奥津荘

泉質: アルカリ性単純温泉

pH: 9.2(強アルカリ性・漂白効果あり)

湧出量: 毎分約1,000リットル・自噴泉

泉温: 約43℃

源泉かけ流し: 各旅館とも源泉かけ流し・奥津荘「鍵湯」は足元自噴泉

効能: 神経痛・筋肉痛・関節痛・皮膚病・疲労回復・美肌

旅の余韻

出典:一般社団法人 鏡野観光局

浴槽の底から温泉がぽこぽこと湧き出している。

手を差し入れると、生まれたての源泉が指先に触れます。藩主が鍵をかけてでも独り占めしたかった理由が、このやわらかな湯に浸かった瞬間にわかる気がします。

吉井川のせせらぎを聞きながら、昭和レトロな温泉街をゆっくりと歩く。

奥津温泉の静けさは、急かされることなく自分のペースで旅をさせてくれます。