林芙美子・吉川英治・横山大観が愛した【角間温泉】源泉かけ流し|室町時代から湧く文人の湯と3つの外湯めぐり


出典:岩屋館
2026年4月17日

この記事を書いた人

湯あがり ぽか子

温泉大好き40年のベテラン。「一湯一会」を逃さないために、常に手ぬぐいを持ち歩いています。長年の経験で、お湯を触っただけで大体の泉質がわかる特技を持ちます。温泉好きが高じて、温泉ソムリエ・温泉観光アドバイザーの資格を取得。日本の宝である「温泉文化」を皆さんにお伝えできることが喜びです!

渋温泉や湯田中温泉が賑わいを見せる国道の向こう側、角間川に沿ってひっそりと湯煙を上げる集落があります。

長野県山ノ内町・角間温泉。

室町時代に浄土真宗の高僧・蓮如が発見したと伝わるこの湯は、江戸時代には松代藩の宿としても使われ、小説家の林芙美子が戦時中に疎開して作品を生み出し、吉川英治が執筆のために逗留し、横山大観がアトリエを設けた。数多くの文人墨客に愛されてきた湯治の名湯です。

木造の小さな旅館が数軒、その中央に共同浴場の「大湯」、宿と宿の間に「滝の湯」「新田の湯」が並ぶだけの静かな集落。

源泉かけ流しの熱い湯が溢れ続けるその風景は、まるで時間が止まったかのような、失われかけた湯治場の原風景です。

志賀高原の麓・北信濃の山あいへ 角間温泉への道

出典:一般社団法人 長野県観光機構

角間温泉は、長野県下高井郡山ノ内町、志賀高原の入口に位置する湯田中渋温泉郷の一角にある温泉です。

国道292号線(志賀草津高原道路)を挟んで渋・湯田中温泉と向かい合う形で、角間川の河畔に数件の小宿が集まっています。

標高800メートルの山あいに位置し、三方を山に囲まれた静かな地形が、この温泉地の秘境感を生み出しています。

山ノ内町は長野県の北東部、上信越高原国立公園の中心にあります。

町域の93%が山林原野で、志賀高原が面積の7割を占める自然豊かな地です。

冬はスキー客で賑わう志賀高原も、温泉シーズンには深緑や紅葉が山を彩り、地獄谷のニホンザルが温泉に入る光景でも知られる地獄谷野猿公苑も車で近い距離にあります。

渋温泉の石畳や九湯めぐり、湯田中温泉の歴史的な旅館街からわずか数分の距離でありながら、角間温泉だけが別世界のような静けさを保っています。

「知る人ぞ知る」という言葉がこれほど似合う温泉地は、長野でも珍しいと言えるでしょう。


林芙美子・吉川英治・横山大観 文人たちが愛した湯の里

出典:岩屋館

角間温泉が全国の温泉好きに「ただの鄙び温泉ではない」と知られる所以のひとつが、その豊かな文人との縁です。

小説家・林芙美子は太平洋戦争中にこの地へ疎開し、角間温泉の静寂の中で筆を走らせました。

「放浪記」で知られる彼女が、戦争の喧騒から離れてこの山里の湯を選んだことは、角間温泉の持つ深い静けさを物語っています。

「宮本武蔵」「三国志」などで知られる大衆文学の巨人・吉川英治もまた、執筆のためにこの地に逗留しました。

物語を紡ぐ集中力を養うために選んだ場所が、この小さな湯治場だったということが、角間温泉の本質的な魅力。

俗世から切り離された静寂を如実に示しています。

そして日本画の大家・横山大観は、角間温泉に別荘を設けてアトリエとしました。

北信濃の山の風景と、源泉かけ流しの湯が生み出す湯煙。その情景が大観の絵心を刺激したのかもしれません。

このような文人たちの足跡が今も語り継がれる角間温泉には、単なる観光温泉地にはない、静謐で知的な空気が漂っています。

訪れた人が「また来たい」とリピートするのも、その雰囲気に浸りたいからに他なりません。


信州の山の恵み 山菜料理と地の食材

出典:仙境名湯の宿 高島屋

角間温泉の旅館の夕食は、志賀高原の麓・北信濃の山の恵みがふんだんに並びます。

春から夏にかけては山菜料理が食卓の主役です。

コゴミ・ゼンマイ・タラの芽・フキ・ワラビなど、志賀高原の豊かな山から採れた季節の山菜を、丁寧に下ごしらえして並べる素朴な料理は、化学調味料に頼らず素材の風味を最大限に引き出した味わいです。

山ノ内町周辺はリンゴ・ブドウ・モモの産地としても知られており、旬の果物が食後に登場することもあります。

湯治客が多い温泉地らしく、各宿とも「体によい食」を大切にしており、素材の力を引き出すやさしい料理が旅人を迎えます。

長期滞在・自炊歓迎の宿もあり、自分で食材を持ち込んで共用のキッチンを使いながら湯治に専念するというかつながらのスタイルも健在です。