3. 油屋のモデルは日本最古の温泉で有名。愛媛「道後温泉本館」

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愛媛県にある道後温泉本館(どうごおんせんほんかん)は日本最古の温泉として有名です。夏目漱石も入浴したことで知られていますが、ここは旅館ではなく共同浴場です。商店街を抜けると現れる歴史ある道後温泉本館は独特の世界観を作り出しています。

堂々とした風情の道後温泉本館は地元の人にも愛されていて、ちょっとした会話で裸の付き合いが楽しめる親しみやすい温泉でもあります。

<歴史>

道後温泉は、約3000年の歴史を誇る日本三古湯の一つです。「日本書紀」や「源氏物語」などの古い文献にも登場し、飛鳥時代に聖徳太子が来浴した話をはじめ、伝承も数多く残っています。

夏目漱石が英語教師として松山に滞在していたことから、道後温泉は小説「坊っちゃん」の舞台にもなりました。「坊っちゃん」の大ヒットによって道後温泉の評判は全国区となり、さらにミシュラン・グリーンガイド・ジャポンでは最高位の三つ星を獲得。今や世界に誇る名湯として知られています。

<建物>

木造3階建ての道後温泉本館は、明治27年(1894)に改築されました。小説「坊っちゃん」の作中で賞賛された「住田の温泉」は、まさに道後温泉本館のことであり、当時からいかに素晴らしい温泉だったのかが想像できます。三層楼(さんそうろう)の建物は、屋根に据えられた白鷺が特徴であり、現在は国の重要文化財にも指定されています。

毎日6時・12時・18時には、本館屋上の「振鷺閣(しんろかく)」から「刻太鼓(ときだいこ)」が鳴らされます。道後の温泉街に響き渡る昔ながらの音色に、耳を傾けてみましょう。

<温泉>

道後温泉本館には、「霊の湯」と「神の湯」という2つの風呂が設けられています。石造りの「神の湯」は、円柱形の「湯釜」が独特な雰囲気を演出しており、国の重要文化財にも指定されています。

提供:道後温泉本館

全国的に知られてからも、本館に訪れるのは観光客だけではありません。現代においても、地元の人々は銭湯感覚で入浴に来ています。源泉かけ流しを気軽に楽しめる公衆浴場としての価値も、この場所の魅力だと言えるでしょう。泉質はアルカリ性単純泉で、肌に優しいなめらかな湯となっています。

参考:道後温泉本館HP

4. 千と千尋の神隠しの舞台のモデルと噂されるノスタルジックな街並み。山形「銀山温泉街」

山形県にある「銀山温泉街」は大正ロマン漂うノスタルジックな街並みで有名です。500年の歴史を持つ温泉街は、レトロな木造の旅館が軒を連ねていて、時間が止まったかのようにゆっくりと過ごすことができます。

石畳の小道、夕暮れに明かりがともるガス灯など、ノスタルジックな雰囲気に包まれるとジブリ映画の世界に迷い込んだ気分になることでしょう。

<歴史>

銀山温泉は、古くから銀山として知られていた場所ですが、温泉地として賑わうようになったのは寛保年間(1741年)といわれています。江戸時代初期に大銀山「延沢銀山」として栄えたことが、「銀山温泉」という名称の由来となっています。

もともとは深い山奥にある「秘湯」であり、地元の人々は湯治客を相手に細々と宿屋や商いを行っていました。客足が増加したのは、発電所が造られた大正末期から昭和初期にかけてのことです。さらに、平成の新幹線延伸によって、全国から観光客が訪れるようになりました。

<建物>

銀山温泉の魅力の一つに、古き良き日本を感じるノスタルジックな景観が挙げられます。銀山川の両岸に建ち並ぶ洋風木造多層の旅館は、大正末期から昭和初期にかけて建てられたものです。

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昭和元年に高温多量の湯が湧出したことで地域活性に力が入り、各旅館は一斉に洋風化しました。しかし、戦後は洋風に縛られることもなくなり、和風の建物が増えています。それぞれに個性のある宿を選ぶのも、銀山温泉を訪れる楽しみです。

<温泉>

銀山温泉にある各旅館は、川沿いに湧出した源泉をそのまま内湯として引き込んでいます。「出羽(でわ)の名湯」として名高い温泉は乳白色で、きめ細かい湯花が混ざっているのが特徴です。

泉質は保温が続くナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉で、神経痛や関節痛、冷え性、皮膚病などでお悩みの方におすすめです。飲泉した場合は、便秘や糖尿病などに効用があるとされています。食事の1時間から30分前に飲泉を行うと、より効果が期待できるでしょう。

参考:銀山温泉HP

5. 赤い吊り橋、もう一つのモデルは群馬県・伊香保温泉の「河鹿橋

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群馬県を代表する名湯の一つ、「伊香保(いかほ)温泉」。

四万温泉の「積善館本館」の橋と同じく、「千と千尋の神隠し」の油屋の前にある赤い橋のモデルになったという説のある「河鹿(かじか)橋」は、伊香保温泉の象徴「伊香保石段街」の最上段に位置する「伊香保神社」から徒歩5分ほどの湯元通りにあります。

<歴史>

出典:PIXTA

長い歴史を持つ伊香保温泉は、万葉集でも詠まれている名湯です。榛名山(はるなさん)二ッ岳の火山活動により温泉が噴出し、約1900年前の第11代垂仁(すいにん)天皇の時代に発見されたのが始まりという説と行基(ぎょうき)によって見つけられたという説の2説が伝えられています。

江戸時代に、伊香保にある水沢寺が関東の十六番札所に選定されたのをきっかけに、巡礼者が多く訪れるようになりました。街の中心にある石段街は天正4年(1576年前)頃に築かれ、ノスタルジックな温泉情緒を漂わせています。

<建物>

出典:PIXTA

「河鹿橋」は、美しい朱色をした木造の短い橋。周囲には紅葉の枝葉が重なり合い、秋の紅葉だけでなく夏も青モミジが眩しく輝き朱色と緑色のコントラストが印象的です。

秋の紅葉の見頃の時期にはライトアップが行われ、幻想的な風景を楽しむことができます。(例年10月下旬から11月中旬)

近代短歌を代表する歌人・与謝野晶子の詩が刻まれた石段は1980年から大改修されたもので、みかげ石が敷かれているのが特徴。

2010年に数を増やして365段になった石段は、「温泉街が1年365日、にぎわうようになってほしい」という繁栄の願いが込められています。

<温泉>

出典:PIXTA

伊香保は湯治場としても人気があり、病の治療や健康増進などを目的に多くの人々が訪れます。

金の湯と白銀の湯の2つある源泉のうち、金の湯は鉄分が含まれるため空気に触れると無色透明から茶褐色に変化するのが特徴で、皮膚乾燥症・筋肉や関節の慢性的な痛み・胃腸機能低下・糖尿病・肺気腫などの効能があります。

白銀の湯は、メタケイ酸を多く含む無色透明の単純泉。含有成分が微量のため高齢者や病後の方に向いており、病後回復期・疲労回復・健康増進などに良いとされています。

参考:伊香保温泉観光協会HP

6. 夕暮れ時の魅力あふれる建物は油屋を彷彿。岡山・湯原温泉「元禄旅籠 油屋」

提供:元禄旅籠 油屋

岡山県にある「元禄旅籠(げんろくはたご) 油屋」は、川に面した情趣を感じる老舗旅館で、全8室の客室はすべて温泉付き。

宿泊専用棟「夢酔庵(むすいあん)」と食事入浴施設の「食湯(しょくとう)館」があり、宿泊だけでなく日帰り入浴や食事処としても利用できます。

荘厳な外観は、夕暮れ時になると「千と千尋の神隠し」の油屋を彷彿とさせる幻想的な雰囲気になります。

<歴史>

元禄元年(1688年)に創業した「元禄旅籠 油屋」は、古くから旅人の為に道中の灯りの油を提供していたため、「油屋」と呼ばれてきました。「元禄旅籠 油屋」のある湯原(ゆばら)温泉は、湯郷(ゆのごう)温泉、奥津(おくつ)温泉とともに美作(みまさか)三湯と呼ばれ、西日本有数の温泉地として評判です。

川底から湧き出る温泉を岩で囲った「砂湯」は、温泉評論家・野口冬人(ふゆと)氏による「諸国露天風呂番付」で西の横綱にランクされた湯原温泉のシンボル的な温泉です。

<建物>

「食湯館」は、かつて宿泊もできた歴史的な外観を残す木造建築です。駒の模様が彫られた食湯庵の濡れ縁の手すりは、千と千尋の神隠しに登場すると言われていて一見の価値ありです。

板張りの和モダンな印象の館内は、建て替え前の形跡が残る箇所もあり、天井には昔の梁を見ることができます。宿泊棟である「夢酔庵(むすいあん)」はコンクリート造りで、全室から美しい川の景色を眺められます。

<温泉>

提供:元禄旅籠 油屋

「元禄旅籠 油屋」では、湯本温泉館地下・夢酔庵地下泉源の湧出直後の新鮮な湯が楽しめます。

館内には露天風呂を備えた男女別の大浴場(男湯は半露天)や家族貸切風呂などがあり、全客室にもそれぞれに源泉かけ流しの温泉があるので、心ゆくまで温泉を堪能できます。

泉質はアルカリ性単純温泉で、石鹸なしでも化粧水をまとった様なぬるぬるとした触感が特徴。筋肉または関節の慢性的な痛みやこわばり・軽症高血圧・糖尿病・軽い高コレステロール血症・軽い喘息などに効能があります。

参考:油屋HP